序章 5 殺しの約束
彼は約束した。
うまくいったら必ず復讐すると。
ここに居る奴らを、皆殺しにしてやると。
身体が自分の意思で、自由に動くとわかると、まず周囲の状況を観察した。
部屋に居るのは全部で六人、一人が扉に向かっている。それを見てすぐさま行動した。
扉に向かっている男に向けて、一気に駆け出し、その直線状に居た男を弾き飛ばす。
グェと言う音で振り返った男は、顔面が陥没するほどの力で殴り沈黙させた。
残った四人も、逃がすことなく意識を奪い拘束した。
殺さなかったのは、慈悲ではない。
悪魔との話し合いで、融合が予想どおりになった後の事も、相談して決めていたのだ。
まず、制御不能なキメラが生まれたことを、知られてはならない。
ゆえに扉に向かった男を最初の目標にしたのだ。
こういった危険な研究をしている所は、不足の事態に備えて、それなりの対策をしているものだ。
行動するときは、慎重に誰にも知られない様に動く。でなければ直ぐに対策を取られてしまう。
全員の拘束を終えると、あらためて自分の状態を見た。
一応人型で自由に動く、かけられた傀儡の魔法は、まったく機能していないようだ。
次に、融合した悪魔とキメラの、魂の状態を調べてみる。
調べ方はすぐにわかった。魂の存在を意識すると、そこにある情報を自由に見ることができる。
キメラの方も、特に問題は感じられない。
心配していた、情報の融合による意識の崩壊などは、起きる気配はない。
だが、悪魔の意識は崩壊してしまったようだ。どれだけ魂を調べても、あの声は聞こえてこない。
落胆しながらも、身体と魂の調査を続ける。
機能していないのはわかったが、気分的なものもあり、どうにか傀儡の魔法を解けないかと、試行錯誤していたら、魂の力、つまりは魔力でもって、無理矢理壊すことができた。
魔法を壊すのに消費した魔力は、しばらくすれば回復するようだ。
悪魔の情報を調べていたら、ある情報に気が付いた。
それは悪魔の名前だった。
ギルベック
それがもう居ない悪魔の名前。
「ギルベックか・・・・・・ギルベック、オレの名前は水野友だ。」
あの時名乗れなかった名を・・・・・・・今名乗った。
彼、・・・水野友は次の行動に移る。
これから行うことには、再び危険を伴う可能性がある。だがユウは出来るとふんだ。
魂と肉体の状態を、調べて見てわかったことは、魂と肉体の関係が崩壊していることだ。
この世界の生物は、魂が主であり、肉体が従なのだが、ユウはどちらも主であり従であり、自分の好きな様にできた。
ゆえに、魂の記憶や容量を使え、自分の元の体をさっきより強くイメージ出来る様になり、また融合の際、自分の意思が反映する感覚があったので、再び行うことに、さほど危険はないと判断した。
しばらく時間が経ったために、何人か目を覚ましていたが、特に気にせず、今だ気絶していた男を魔方陣へと引きずっていく。
装置の使い方はギルベックから聞いていたし、記憶を探れば確認もできる。
装置にはタイマーも付いていたので、問題なく融合することができた。
ユウは二度目の融合でコツを掴み、より正確に自分の肉体を再現でき、身体を覆っていた、鎧のような殻は消えて、人間らしい皮膚が現れた。
こうして融合を繰り返し行い、五度目には、完全に元の姿を取り戻すことができた。
四人目と五人目は意識があったので、その顔は恐怖と絶望で歪み、猿轡を咬まされ口を塞がれながらも、許しと慈悲を懇願してきたが、もちろん構わず融合した。
これほどの苦しみ様なら、ギルベックもさぞ満足だろうとも思った。
ユウは六人目の融合を、すぐには始めず、まず新たに融合した、五人の記憶と知識を調べる。
さすがに、専門家らしくキメラの生成融合に関しては、大量の有益な知識を持っており、これにより、新たな融合の可能性に気づき、それを試してみようと準備を始める。
まず思いついたのは、簡易式の融合法で、要するにこの部屋にあるような、魔方陣や魔法装置など使わずに行う融合で、必要なのは、魔法装置に組み込まれていた、各種の魔法鉱石のみ、全部集めても片手で持てる量にしかならない。
魔方陣や魔法装置の変わりは、自分の魔法のみで再現する。
じつはこの方法、大昔、魔法装置がない時代のやり方なのだ。
ただ魔法を使う人間が何人も必要で、魔方陣も必要だったが。
準備を終えると、最後の男の前に立って、手に魔法石を持ち呪文を唱える。
「肉よ、魂よ、我が命じるがままに混じり合え。」
ユウと男を球体状の魔方陣が覆い、内部で融合の光りが起こる。
しばらくして、光と魔方陣が消えると、そこにはユウしか居なかった。
自分以外誰も居なくなった部屋で、ユウは実験の成功を確認した。
この方法は、大量の魔力が必要で、悪魔と五人の人間とキメラ、これだけの存在と融合して、魔力と魂の容量が、膨大な量になっていたから行えたのだ。
次に、もう一つの新しい融合法を試す。これには新たな融合素材は必要ない。
ユウが呪文を唱えると、球体状の魔方陣が再び覆い、融合の光りが起こる。
球体の中から現れたのは、先ほどユウに融合された研究員の一人だった。
「よし!成功した!!」
こんどの融合は他者との融合ではなく、自身の再融合で、これまで融合した素材を組み替えなおして、様々な姿になる。
幻などとは違い、自分の肉体が変化するので、変身が解けると言うことはないのだ。