序章 4 キメラ生成
部屋の中では、あわただしく人が動いている。
魔方陣の周囲に設置された、融合の為の魔法機械を弄っている者、ノートに機械から表示される情報を、書き込んでいる者など様々だ。
それらの人間に指示を飛ばす男は、この研究室の室長だ。
この融合実験は、半ば憂さ晴らしの様な感じで始めた実験だが、案外面白い結果が出るかも知れないと思っていた。
この素材は、魔力が感じられないほど魂が希薄なのに、何故か生きている。
普通は、魔力が感じられなくなるほど小さくなると死ぬ。
にもかかわらず、生きているとなると、絶妙なバランスの上で成り立っているのだろう。
こんな、ある意味奇妙な実験素材は初めてだ。
男は気づいていなかった。
自分が部下達と同じく、生きていれば魂があるという先入観によって、この素材の魂は、わからないほど小さいと思い込み、本当はまったく無いのだということに。
そして、気づかぬまま、融合実験は始まった。
部屋に入った時から、悪魔との念話はやめていた。
彼の意思が脳のみにあっても、融合により魂を得て、ソコから来る情報と混ざり合って、崩壊する可能性は十分にあると見ている。
ゆえに、その可能性を上げないように、他者の意思は極力排除する様に決めた。
また融合する時、自分の元の姿を思い描き、それ以外一切考えないようにして、脳や身体が致命的な変化を起さない様にする。
悪魔は、キメラを思いながらも、姿は一切思い描かない様にして、自分とキメラの結びつきを強めて、彼との結びつきを弱くする。
これがどこまで有効なのかわからないが、これ以上の事は思いつかなかった。
目はずっと閉じたままにしていた。
融合を少しでもうまく出来るよう、自分の姿以外、心に浮かばない様に。
だから、彼は悪魔とキメラ姿を見ることは無かった。
魔法機械がブーーーンと低い音を出しながら光りだす。
魔方陣の文字も光りだし融合が始まった。
悪魔とキメラと彼の姿がぼやけ始め、次の瞬間、まるで放電しているかの様な音と光りが、彼らを包む。
音と光りが徐々に収まり、その中から人の形をした者が立っていた。
それはまるで、鎧を着ているかのようだった。
融合に使ったキメラは、四足の獣型と巨大なカニ型の魔獣で作ったもので、硬い殻を持った獣型のキメラだ。
なかなかうまくいったキメラだったが、それでも動きに邪魔になる足が生えていたり、殻がうまく身体を覆っていなかったりと、今後の課題も多かったやつだったので、まさか、ここまでうまくいくとは思わなかった。
鎧のように身体を覆っている殻は黒い、身体の重要な部分は完璧に覆われている。
頭もまるで仮面を着けているかのように見える。
全身で見ると、重厚そうに見えながら、スラリとして俊敏そうな雰囲気も持っている。
「やりましたね!!大成功ですよ!!!」
部下が喜び勇んで駆けて来る。
当然だ、これほどの物は近年まれに見るものだろう。
詳しい能力は、調べなければわからないが、かなり期待ができる。
このサイズのキメラとしては、最高級の出来だろう。
「しかし、こうなると傀儡の魔法をかけ直さないとな。」
笑みを浮かべながら、部下に返事を返す。
「そうですね、人型の物に変えないといけませんから。すぐに用意します。」
「よし!傀儡魔法を変えたら、すぐに性能を調べるからな!!みんな、これから忙しくなるぞ!!」
このキメラなら、前の失敗を取り戻せるかもしれない。
さっきまで、沈んでいた意識を持ち上げ、周囲に指示を飛ばそうとして・・・・・・
男は意識を失った・・・・・・永遠に。