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魔人種  作者: マーチ13
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第1章 1   魔獣狩り

深い森の中を、全身に鎧を着込んだ男が一人で走っていた。

鎧は独特な形をしており、一目見て複数の材料から作られたことが分かり、ある所は金属で、ある所は鱗で、またある所は骨でと、実に様々な素材から出来ている様だ。

また、作りも非常に精巧で、腕のいい職人の手による物とわかる。


男の後を追うように、大きな地響きが近づいてきており、木々が圧し折れ倒れる音も、聞こえて、いよいよもって、走るスピードを上げ必死の形相で駆け続けるが、それは聞こえてきた。


「グゥロオオオォォォーーーーーー!!!!」

その凄まじい咆哮は、それだけで気の弱い人間を、死に至らしめる様な圧力を持っていた。


咆哮の主は、全身を硬質なうろこで覆われており、鋭い爪と牙を持ち、頭からは明らかに攻撃用と分かる角を持ち、背中と長い尻尾の先には頭と同じ角がまるで棘の様に生えていた。

全高は3メートルほど、全長にいたっては10メートルを超えるほどの巨大さだ。

この恐るべき生物は、愚かにも自分に挑み情けなく逃げている、小さくひ弱な存在を、惨めに噛み砕くべく、大きく口を開けそのアギトの餌食にすべく、狩の詰を行おうと飛び掛った。


「うおおおおぉぉーーーーー!!!?・・・・・・あっあぶなかった!!!」

ジャンプして一気に距離を詰めてくる、怪物の気配を感じ、とっさに横っ飛びをして難を逃れたが、以前危機は続いている。

すぐさま立ち上がり、駆け出すが、怪物もしつこく追いかけてくる。

男は絶体絶命のピンチなのに、何故か必死の感じは分かるが、悲壮な感じはしない。

周囲を見て、時折笑みさえ浮かべて、駆け続ける。


再び、魔獣が飛び掛れる距離に男を捉え、四肢に力を込めた瞬間、真横から強烈な一撃をくらい、吹っ飛ばされた。

怪物が喰らったのは、振り子のように設置された、丸太の罠で、しかも先端が尖っていたので、脇腹にかなり深く突き刺さるが、反動ですぐに抜けた。



「よっしゃあぁぁーーーー!!!やったぞおぉーーーー!!!!」

罠の設置されていた木の上から、別の男が喜びながら降りて来て大声を上げる。

「見たかよ!!このドンピシャのタイミング!!おれってすげーーー!!!」

走っていた男と同じように、鎧を着込んでいたその男は、踊りだしそうな様子で喜んでいたが、

「喜ぶのは後にしろセイルス。」

ヤブの中からこれも同じく鎧を着た男が、油断無く大きな斧を持って現れ、続いてまた別の男が現れ、全力疾走をして、喋る事も出来そうに無い男に、駆け寄り話しかける。

「大丈夫ですか?シャリオさん、すぐに回復させますから。」

「ゼイ!・・・・・・ハア!・・・・・・ゼイ!・・・・・・ハア!」

座り込みはしなかったものの、手を膝に付いて頭だけ動かし返事をする。

「我が主ラムサスよ、貴方の僕に、今一度大いなる奇跡を・・・」

駆け寄った男の手から、祈りの言葉とともに淡い光りが注がれ、シャリオと呼ばれた男の体力が回復した。

「・・・ふう、あんがとなリックス。」

「はい、どう致しまして。・・・あと、これを。」

「おう。」

シャリオは、預けて置いた剣を渡される。

彼は、セイルスが発動させた罠まで、あの怪物、グランバラムと言う大型の魔獣を、おびき寄せる役目を負い、ここまで逃げてきたのであった。

なお、彼の剣は走るのに邪魔だから預けていたのだが、鎧は万が一を考えると預ける気にならなかったのだが、そのせいで追いつかれそうになり、何度も死に掛けていた。

「三人とも、まだ気を抜くなよ。」

斧を持った男、名をバレンと言うが、彼は罠に弾き飛ばされ、倒れたままのグランバラムを見据えたまま、注意を促す。

「でもよー、さっきの見たろ?脇腹にブッサリだぜ?さすがに生きてねーんじゃねえの?」

セイルスが楽観した様子で答えるが、それをあっさり否定するように魔獣が起き上がる。

「ウエエェ!?うっそ!!マジィー!!?」

脇腹の傷は、あの巨体でも十分致命傷に見えるが、グランバラムはしっかりと立ち上がり、彼等の方を見て咆えた。


「グゥオオオォォォーーーーーー!!!!」


「オイオイ、奴さんあんな身体でやる気マンマンだよ!!」

セイルスは気圧され、後ずさりしながら、何時でも逃げ出せる様にした。

仕掛けた罠は、これだけではなく、ほかにもあり、失敗したら順次、次の罠へとまた一人がおびき寄せて、他の者が現場へ先回りして仕掛けを動かす。

さっきはシャリオが囮になったが、いくらリックスの魔法でも体力をすべて回復することは出来ず、結果、他の者が囮にならなければならない。

そして今度はセイルスが囮をする番なのだ。

先ほど異常に喜んだのも、囮をしなくて済むと思ったからでもある。

実際彼の顔は、今にも泣きそうな程、悲観に暮れた顔をしていた。

「ちくしょ~~~おれの人生もこれまでか~~~」

囮になることに、泣き言を言い出すセイルスだが、バレンの考えは少し違った。

「まてセイルス・・・よく見ろ奴を、咆えてはいるが向かってこない。あれは威嚇だ。」

「そりゃ、襲う前に威嚇ぐらいするだろう?」

「いや・・・襲う前の威嚇じゃない・・・・・・じゃあ・・・何の為の?」

バレンは、グランバラムから目を離さず、自問し思考する。

「・・・・・・そうか!!まずい、奴は逃げるつもりだ!!!」

バレンは、威嚇が、自分たちを、近付けさせないための物で、体が動く様になるのを、待っているのだと気付いた。

「ええっ!?マジか!?」

「そっ!それは困ります!!」

セイルスとリックスが声を上げる。

なぜなら、彼らの目的は狩であって、追い返すなどと言う事ではない上に、今回の狩は依頼人など居らず、報酬は魔獣の死骸のみで、また、絶対に狩を失敗できない理由もあったからだ。

「奴を逃がすわけにはいかん!直接仕留めるぞ!!」

バレンが斧を構えて走り出す。

「止むを得んか。」

シャリオも剣を鞘から抜きバレンに続く。

「ちくしょ~~結局最後は肉弾戦かよ~」

セイルスはリックスから槍を受け取りながら半泣きになった。

「仕方ありませんよ、もう一息頑張りましょう。」

リックスは弓を取り出し構える。

「いいか、お前の回復は切り札なんだからな。前に出て来るなよ。」

リックスに釘を刺し、セイルスも二人の後を追う。

「はい!・・・・・・さて僕も頑張らないと。」

矢をつがえ、弓を引き絞り、狙いを定める。相手は巨大だが体の殆どが、硬い鱗に覆われて、弓矢では、傷つけることも出来そうにないため、狙うなら傷のある脇腹か、目のある顔だろう。

味方も、この二つを狙うだろうから、気を付けないと邪魔になってしまう。

狙いを定めながら、戦い方をおさらいして、矢を放った。



「うおおおおぉぉーーーー!!!」

バレンは、雄叫びを上げ、自分を鼓舞しながら突っ込む。そうしないと、今にも逃げ出したくなるからで、そうせざる得ないほど、相手の威圧感は凄まじいのだ。

斧を振り上げ、叩き付けようとした時、横から大きな影が襲ってくる。

尻尾だ。

反射的にしゃがんでかわしたが、もう少し下に振るわれれば、尻尾に付いた棘に、串刺しにされていただろう。湧き上がってくる恐怖を押さえつけて、斧を振るう。


ガッ!ギィィィーーー!!


まるで、金属同士が接触した様な音がするが、間違いなくこれは、生物の皮膚なのだ。

十分力の乗った一撃だったが、鱗を一部傷つけただけで、下の肉には届いていない。

ならば、傷口をと、回り込もうとしたが、前足を振るわれ阻まれる。

仕方なしと、振るって来た前足に、攻撃するが、先程の様に弾かれる。

再び尻尾と前足が襲い掛かるが、今度は後退してかわす。


バレンに気を取られて、横から来たシャリオに気付くのが遅れ、傷口に接近されるが尻尾で薙ぎ払おうとした時、顔面に矢が飛んできて、反射的に目を瞑ってしまい、対応が遅れる。

結果、シャリオの剣は、傷口に見事に当たり、しかも剣から炎が上がり、傷口を焼いていく。

彼の剣は、魔力を帯びた特殊な材料から造られた、魔力装備で、炎を出す事ができるのだ。


「グゥギャアアアァァーーーーーー!!!!」


グランバラムが明らかな苦痛の声を上げ、全身を激しく暴れさせる。あわてて剣を抜き、距離を取るシャリオ。あの巨体で全身を使って暴れられたら、自分達ではどうにもできず、離れるしかないが、重傷を負っている今、ああも激しく動けば、著しく体力を失うだろう。


一頻り暴れて、グッタリした所で、再び攻撃を仕掛ける。

バレンが、正面に立ち注意を惹きつけようとするが、無視して、傷口の方に近づこうとするシャリオに尻尾を振るい、近付けさせない。

反対側から、セイルスが来ていても、此方も無視していたが、彼が槍を当てた瞬間、全身に衝撃と痛みが走り、それが傷口を刺激して、強烈な痛みとなり、動きが鈍る。

そこを再び、シャリオが狙うが、身体を捻られ、傷口には当たらなかった。

セイルスの槍も魔力装備で、彼の槍は帯電して、触れた相手に、電撃を与えることが出来る。

シャリオの攻撃を捻って逸らした瞬間、顔面にバレンの強烈な一撃が入った。

バレンは自分に対して、まったく対応しなくなったので、十二分に力の乗った一撃を、狙い済まして入れることができ、それ程深くはないが傷を与え、また脳に衝撃を与えたお陰で、一瞬動きを止めさせ、再びシャリオの一撃が入ることになった。



グランバラムは、結局傷口のみを守るということが出来ず、三人に満遍なく対するしか無くなり、結果さらに、傷口を抉られ、バレンやセイルスからも細かい傷を、いくつも受け、満身創痍になっていった。


このまま行けば、遠からず倒せると思い始めた時、グランバラムが倒れたので、全員が終わったと思った瞬間、後ろ足だけで一気に前へ飛び掛って来た。

正面に居たバレンは、迫り来るアギトはかわせたが、巨体すべてをかわす事はできず、弾き飛ばされ、地面に勢いよく転がる。

グランバラムはその勢いのまま、後方のリックスに迫り、不意を突かれた彼は一歩も動けず、矢をつがえ弓を構えたまま、固まってしまい、そのまま踏み潰されようとしていた。


シャリオは追いかけようとして、自分自身間に合わない事は、分かっていたが、そうせずにはいられず、セイルスは「逃げろ!!」と大声を上げていたが、視界に何かが入って来た時、グランバラムの巨体が逸れて、リックスのすぐ脇を通過した。


やはり限界だったのだろう、グランバラムは木々を薙倒しながら直に止まり、そのまま動かなくなり、リックスは暫らく呆然としていたが、慌ててバレンの元へ行き、治療を施した。

シャリオとセイルスは、その場にへたり込んで、動かなくなった、グランバラムを見つめていた。


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