三行日記 ~今日も明日も明後日も~
『今日も田崎くんが大好き』
『明日も田崎くんが大好き』
『明後日も田崎くんが大好き』
『三行日記・1』と表紙にかかれたノート、中身を読むとこう書かれていた。
田崎まゆり、旧姓瀬川まゆりが夫である田崎正信に告白された日にノートを買い、三行日記をつけ始めたのだ。
自動車会社に入社して総務に配属されたまゆり。
三年経って恋人ができたが、一年後、別れを告げられたのだ。
まゆりの親友と結婚する、と。
彼女としては欠片も痛くなかったのだが、後輩だった正信に漏らしたらこう宣言されたのだ。
僕じゃダメですか、と。
別にダメではないが、と前置きした上でまゆりは説明した。
自分は飽きっぽく、これまで付き合ってきた彼氏はその空気を敏感に読み取って親友に流れたことを。
なぜか痛ましいものを見るような瞳に涙を浮かべ、正信は述べた。
自分は不細工だからちょっかいを出す女はいないし、あなたを裏切らない。
正直不安はあったが、付き合うことにしたまゆり。親友が結婚したゆえ、そう簡単に“飽きた”じゃすまないのは理解している。
考えた末に、三行日記をしたためることにした。書けば心に刻まれると信じて。
本来の書き方とは違うやもしれないが。
まゆりはページをめくっていくと、書き方が変わった箇所があった。付き合って半年後だ。
『今日も正信くんが大好き』
『明日も正信くんが大好き』
『明後日も正信くんが大好き』
まゆりは口元をほころばせる。
これは正信に結婚を求めたときだ。
あのとき彼は目を白黒させていた。
そして一言。
「俺でいいのか?」
まゆりも一言。
「あなたがいいのよ」
結婚式はつつがなく終わり、新居は庭付きの一戸建てと相成った。まゆりは会社を辞めて専業主婦に職業転換し、子供をもうけた。
『今日も正信が大好き』
『明日も正信が大好き』
『明後日も正信が大好き』
長男が産まれ、長女が産まれ、必死で子育てをし、旦那にも家事に育児に助けてもらい、時に喧嘩し、仲直りしを繰り返しながら、大学まで二人を行かせた。
子供が家を出て、家庭をそれぞれ作ってからは、夫婦水入らずで時を過ごしてきた。
まゆりは息をついた。
お前百までわしゃ九十九までを夢に見たが、正信は女神を魅了し、天国へ旅立ってしまった。
いい男を旦那に持った弊害である。
だが、まゆりの書くことは変わらない。
『今日も正信が大好き』
『明日も正信が大好き』
『明後日も正信が大好き』
ちなみに、私は日記を書いてません。




