魔女の噂 【月夜譚No.402】
学校の近くに、魔女が住んでいると噂の廃屋がある。
それは昼間でも暗いような林の中にあって、入り口からでも目を凝らせば見ることができた。二階建ての屋根は瓦が半分ほど落ちており、窓硝子は薄汚れて一部が割れている。玄関扉には蔦が這って、とても開きそうには見えなかった。
中学生にもなって下らない噂話に花を咲かせるなんて馬鹿馬鹿しい。彼はそんな風に思って、その話に加わることはなかった。
その日は塾で講師に解らないところを質問したせいで、帰りが遅くなった。月も出ていない暗い夜道の途中で件の林の前を通りかかった瞬間、ふと噂話が頭を過った。
しかし、すぐに首を振ってそれを追い出す。繰り返し何度も生徒達が話すから、つい思い出しただけだ。あんな話、信じるのは馬鹿だけだ。
その刹那、視界の端を光が横切った。反射的に林の中に目を向けるが、光源はない。月明かりも届かない暗闇が広がるばかりだ。
思わず詰めていた息を吐いて歩き出そうとして、上がった足が中途半端に静止した。
廃屋の二階。暗くて見えないはずの窓の一つが瞳に映る。
砂埃や雨で汚れた窓の向こうが、ぼんやりと明るいのだ。
逃げたい。逃げなければ。頭ではそう思うのに、足がいうことをきかない。
気がついた時には、彼は廃屋の扉の前に立ってその取っ手に手をかけていた。意思に反して開く扉の向こう側で、厭に綺麗な顔が笑った気がした。




