義理の妹に殺された私は、よみがえって復讐します
義理の妹のリリアは、私によく似ていた。
淡い金の髪。
青い瞳。
白い肌。
細い輪郭。
血はつながっていないのに、まるで双子のようだと、屋敷を訪れる客人たちはよく言った。
そのたびに、リリアは可憐に微笑んだ。
「お姉様と似ているなんて、光栄ですわ」
けれど私は知っていた。
リリアは私に似ていることを喜んでいたのではない。
私と同じ顔を持ちながら、私のものを奪えることを喜んでいたのだ。
私はエレナ・フォルスター。
フォルスター伯爵家の長女として生まれた。
幼いころに母を亡くし、父が後妻のマルヴィナを迎えてから、私の居場所は屋敷から消えた。
後妻は私を嫌った。
「エレナ、あなたは本当に役に立たない子ね」
何度もそう言われた。
その隣で、リリアはいつも笑っていた。
「お姉様はかわいそう。何もできないのですもの」
私は何も言い返さなかった。
魔法も使えない。
社交も苦手。
地味で、愚鈍で、父にも期待されない長女。
そう思われるように、私は生きてきた。
けれど、本当は違う。
私は魔法が使えた。
ただし、それを誰にも見せなかった。
この家で力を見せれば、必ず利用される。
母がそうだった。
優しく、賢く、家のために尽くし、最後には壊れるまで使い潰された。
だから私は、無能なふりをした。
けれど、たった一人だけ、私の本当の姿に気づいた人がいた。
ユリウス・レインハルト様。
レインハルト侯爵家の若き当主で、王都でも名の知れた方だった。
ある夜会の庭で、彼は私に言った。
「エレナ嬢。あなたは、ご自分を隠すのが上手すぎる」
私は息をのんだ。
彼は私を責めなかった。
ただ、静かに続けた。
「隠さなければ生きられなかったのでしょう。なら、私の前では無理をしなくていい」
その言葉に、私は初めて救われた気がした。
私を無能と笑わない人。
私を利用しようとしない人。
私が隠しているものに気づいて、それでも黙って待ってくれる人。
やがてユリウス様は、私に結婚を申し込んだ。
「エレナ。私と結婚してほしい」
その瞬間、屋敷中が凍りついた。
父は信じられない顔をした。
義母のマルヴィナは扇を握りしめた。
使用人たちはざわめいた。
そしてリリアは、真っ青な顔で私を見ていた。
「どうして……?」
リリアの声は震えていた。
「どうして、お姉様なの?」
リリアは、ずっとユリウス様を好きだった。
私はそれを知っていた。
私は探知の魔法も使うことができた。
長くは使えないが、リリアの様子を幼いころから見ていた。
リリアが私宛ての招待状を破ったこと。
私のドレスに染みをつけたこと。
ユリウス様の肖像画を隠し持っていたこと。
私の悪口を父に吹き込んでいたこと。
私はすべて見ていた。
リリアは欲しいものを何でも手に入れてきた。
父の愛情。
美しいドレス。
宝石。
使用人たちの称賛。
だからユリウス様も、当然自分のものになると思っていたのだろう。
けれど、ユリウス様が選んだのは私だった。
無能な姉と呼ばれていた、私だった。
その日から、リリアの笑顔は変わった。
「お姉様、おめでとうございます」
声は甘い。
けれど目の奥は、憎しみで濁っていた。
そしてある夜。
探知の魔法が、リリアの本音を私に見せた。
リリアは自室の鏡の前に立っていた。
鏡に映る彼女の顔は、私によく似ていた。
「同じ顔なのに」
リリアは鏡に触れた。
「どうして、あの人はお姉様を選ぶの?」
彼女は唇を噛み、そして笑った。
「でも、大丈夫。お姉様がいなくなれば、私が代わりになれるわ」
その日の午後、リリアは毒を手に入れた。
私はそれも見ていた。
ああ、やはり。
そう思った。
リリアは私を殺すつもりだ。
だから私は、先に準備をした。
味方は一人だけ。
屋敷のかかりつけ医、オスカー先生。
先生は亡き母に恩があり、昔から私を密かに気にかけてくれていた。
「エレナ様。本当にこの方法を?」
「はい」
「危険です」
「でも、リリアは私が死んだと思わなければ、本音を言いません」
私は自分の右手を見た。
私が隠してきた魔法。
それは、体の一部を魔法で作った偽物と入れ替える魔法だった。
私の右手首から先を、魔法で作った偽物の手にする。
見た目は本物と変わらない。
肌の色も、指の形も、重さも同じ。
けれど、その手に脈はない。
医者が脈を取れば、死んでいるように見える。
リリアが自分で触れても、同じだ。
私は死んだと思われる。
そのあと、リリアは安心して語るだろう。
自分が何をしたのかを。
どれだけ私を憎んでいたのかを。
私の代わりになるつもりだったことを。
記録球とは、周囲の音と映像をそのまま閉じ込める小さな魔法具だ。
貴族の屋敷では、契約や来客の記録に使われることもある。
私はそれを、自分の部屋の花瓶の影に隠しておいた。
リリアの自白を、そこに残す。
多くの証人が集まる場所で、リリアが一番幸せだと思う瞬間に、すべてを取り返す。
それだけでいい。
その夜、リリアは私の部屋に来た。
銀の盆の上には、香草茶があった。
「お姉様。眠れないのではありませんか?」
リリアは優しく微笑んだ。
「ユリウス様とのご婚約で、お疲れでしょう。少しでも休めるように、お茶を淹れてまいりました」
「ありがとう、リリア」
私は茶杯を受け取った。
香りの奥に、かすかな毒の気配がある。
私は茶杯を唇に当て、飲んだように見せた。
そして、少ししてから胸を押さえた。
「う……」
「お姉様?」
リリアの声が、わずかに弾んだ。
私は床に倒れた。
呼吸を限りなく浅くし、体の力を抜く。
そして右手を、魔法で作った偽物の手に入れ替えた。
リリアが近づいてくる。
「お姉様? どうなさったの?」
返事はしない。
沈黙が落ちた。
次の瞬間、リリアは小さく笑った。
「本当に、簡単」
やがてオスカー先生が呼ばれた。
先生は部屋に入り、私の右手首に触れた。
脈はない。
先生は目を伏せ、静かに言った。
「……亡くなっています」
リリアが息をのんだ。
そして自分でも、私の手首に触れた。
脈はない。
リリアの唇が、ゆっくりと笑みの形になった。
「そう。死んだのね」
先生は黙っていた。
リリアは悲しげな声を作った。
「先生。少しだけ、姉と二人にしてください。最後のお別れをしたいのです」
「……分かりました」
先生が部屋を出る。
扉が閉まる。
部屋には、私とリリアだけが残った。
いいえ。
花瓶の影に隠した記録球も、そこにあった。
リリアは私のそばにしゃがみ込んだ。
「ねえ、お姉様」
その声は、甘かった。
「あなた、本当に邪魔だったわ」
私は動かない。
リリアは私の髪を指でつまんだ。
「お母様があなたを嫌うのも当然よ。あなたは伯爵家の長女というだけで、何もしなくても本物でいられたんですもの」
リリアは私の顔をのぞき込んだ。
「私たち、こんなに似ているのにね」
彼女は笑った。
「同じ顔なのに、無能なあなたが本物。優れている私が偽物みたいに扱われる。許せなかったわ」
リリアの指が、私の頬をなぞる。
「あなたの母親の形見を捨てたのは私よ。あなた宛ての手紙を破ったのも私。お父様に、あなたが使用人をいじめたと嘘をついたのも私」
やはり。
全部、彼女だった。
リリアは楽しそうに続けた。
「ユリウス様に渡すはずだった刺繍も燃やしたわ。だって、あなたが幸せそうにするのが許せなかったんですもの」
そして彼女は、私の耳元でささやいた。
「今日、あなたに毒を盛ったのも私」
記録球が、静かに光を宿している。
すべて記録された。
リリアは満足そうに息を吐いた。
「でも、安心して眠っていて。お姉様の顔も、場所も、婚約者も、全部私がもらってあげる」
その後、屋敷は大騒ぎになった。
私は死んだことになった。
父は青ざめた。
義母のマルヴィナは泣くふりをした。
リリアは棺のそばで、誰よりも悲しそうに涙を流した。
「お姉様……どうして……」
その姿を見た者は、皆、リリアの姉妹愛に胸を打たれたという。
けれど私は知っている。
彼女が夜、自室の鏡の前で笑っていたことを。
「これで、私がお姉様になれる」
そして、ユリウス様。
彼は私の死を聞いて、深く傷ついた。
棺の前に立った彼の顔は、今でも忘れられない。
「エレナ……」
その声を聞いたとき、胸が痛んだ。
出ていきたいと思った。
生きていると伝えたいと思った。
けれど、まだ駄目だった。
私の復讐は、まだ終わっていない。
リリアはその隙に、ユリウス様へ近づいた。
「ユリウス様……お姉様は、きっとあなたの幸せを願っています」
彼女は私によく似た顔で、私に似せた声を作って言った。
「私でよければ、お姉様の代わりに、あなたを支えます」
周囲も勧めた。
フォルスター伯爵家とレインハルト侯爵家の縁談を、このまま終わらせるのは惜しい。
亡くなった姉の代わりに、妹が嫁げばいい。
そんな声が広がった。
ユリウス様は、悲しみに打ちのめされていた。
そしてついに、リリアとの結婚を承諾した。
その知らせを聞いたとき、私は静かに目を閉じた。
彼を責める気持ちはなかった。
私は、彼を騙している。
私が死んだと信じさせ、悲しませている。
リリアを裁くには、皆が集まる場が必要だった。
リリアが一番幸せだと思っている場所で、彼女自身の言葉を聞かせる必要があった。
だから私は、ユリウス様の悲しみを利用した。
そのことだけが、胸に刺さっていた。
結婚式の日が来た。
王都の大聖堂。
白い花が飾られ、祝福の鐘が鳴り、貴族たちが集まっていた。
リリアは純白の花嫁衣装をまとっていた。
私によく似た顔で、幸せそうに微笑んでいる。
参列者たちは口々に言った。
「まるで亡くなったエレナ様のようだ」
「本当に姉妹でよく似ていらっしゃる」
「きっとエレナ様も天国で喜んでおられるでしょう」
リリアは、その言葉に満足そうに笑った。
祭壇の前には、ユリウス様が立っていた。
彼の顔には、まだ深い悲しみが残っていた。
けれどリリアは気づかない。
彼が自分を見ているのではなく、私の面影を見ていることに。
神官が誓いの言葉を読み上げようとした、その時。
大聖堂の扉が開いた。
冷たい風が吹き込む。
参列者たちが一斉に振り返った。
私は、黒いマントをまとって、そこに立っていた。
リリアの顔から血の気が引いた。
「……お姉様?」
私はゆっくりと歩いた。
「ひさしぶりね、リリア」
大聖堂がざわめく。
「エレナ様?」
「死んだはずでは……」
「幽霊か?」
リリアは震える声で叫んだ。
「違うわ! 偽物よ! お姉様は死んだの!」
私は微笑んだ。
「そうね。あなたは、私が死んだと思った」
「だって、脈が……!」
「あなたが触れた手は、私の本物の手ではなかったの」
私は右手を上げた。
指先が淡く光り、手首から先が一瞬だけ透ける。
参列者たちから悲鳴が上がった。
「魔法……!」
「エレナ様は魔法を使えたのか」
リリアは後ずさった。
「そんな……そんなの、知らない……」
「言っていないもの」
私は静かに答えた。
「あなたたちに奪われないために」
私は手の中の記録球を掲げた。
「今日は、あなたの晴れ舞台に贈り物を持ってきたわ」
記録球が光る。
大聖堂の空中に、映像が浮かび上がった。
私の部屋。
床に倒れた私。
そばにしゃがみ込むリリア。
そして、リリア自身の声が響く。
『あなた、本当に邪魔だったわ』
参列者たちが息をのむ。
リリアは真っ青になった。
「やめて……」
けれど映像は止まらない。
『同じ顔なのに、無能なあなたが本物。優れてる私が偽物みたいに扱われる。許せなかったわ』
父が愕然とした顔でリリアを見る。
「リリア……?」
映像の中のリリアは、楽しそうに語っていた。
『あなたの母親の形見を捨てたのは私よ。あなた宛ての手紙を破ったのも私。お父様に、あなたが使用人をいじめたと嘘をついたのも私』
義母のマルヴィナの顔も青ざめる。
そして、決定的な言葉が大聖堂に響いた。
『今日、あなたに毒を盛ったのも私』
静まり返った。
誰も何も言えなかった。
リリアは首を振った。
「違うの……違うのよ! これは作り物! お姉様が魔法で作った偽物ですわ!」
私はリリアを見つめた。
「あなたは死んだ私に向かって、自分の勝利を語ったのよ」
「違う!」
「私の顔も、場所も、婚約者も、全部もらうと言ったわね」
リリアはユリウス様にすがろうとした。
「ユリウス様、聞いてください! 私はあなたを愛していただけなの!」
ユリウス様は、リリアを見た。
その瞳には、深い悲しみと怒りがあった。
「リリア」
彼は低く言った。
「君は、私の愛した人を殺そうとした」
「でも、私は……!」
「人を殺して奪おうとするものを、愛とは呼ばない」
リリアは崩れ落ちた。
「どうして……私は、ずっとあなたが好きだったのに……」
「だから何をしてもいいと思ったのなら、それは愛ではなく執着だ」
衛兵が呼ばれた。
リリアは毒殺未遂と数々の罪で捕らえられた。
義母のマルヴィナも、これまでの虐待と悪事への加担を問われ、連れていかれた。
父はその場に膝をついた。
「エレナ……私は、何も知らなかったのだ」
私は父を見下ろした。
「知らなかったのではありません。知ろうとしなかったのです」
父は何も言えなかった。
白い花で飾られた大聖堂から、祝福の空気は消えていた。
リリアの結婚式は、彼女自身の断罪の場になった。
すべてが終わったあと、ユリウス様が私の前に立った。
「エレナ」
彼の声は震えていた。
「本当に、生きているんだな」
「はい」
私は静かにうなずいた。
そして、彼に深く頭を下げた。
「ユリウス様。申し訳ありませんでした」
「なぜ、君が謝る」
「私は、あなたを騙しました。死んだふりをして、あなたを悲しませました」
ユリウス様は何も言わなかった。
だから私は続けた。
「けれど、こうするしかなかったのです。リリアを裁くには、皆が集まる場が必要でした。あの子が一番幸せだと思っている場所で、あの子自身の言葉を聞かせる必要がありました」
私の声は、少しだけ震えていた。
「あなたを傷つけると分かっていて、それでも私はこの方法を選びました」
ユリウス様は、長く息を吐いた。
怒っているのだと思った。
責められて当然だと思った。
けれど彼は、私の手を取った。
「エレナ。君が生きていてくれた。それだけでいい」
「ユリウス様……」
「それに、私はまだ花婿のままだ」
彼は、少しだけ笑った。
「なら、聞かせてほしい。エレナ・フォルスター。僕と、この結婚式を続けてくれるか」
大聖堂が静まり返った。
白い花はまだ飾られている。
祭壇も、鐘も、誓いの場も、そこにある。
ただ、花嫁だけが違っていた。
偽物の花嫁ではない。
本当に彼が選んだ、私がここにいる。
私は涙をこらえながら、彼の手を握り返した。
「喜んで」
ユリウス様が微笑む。
神官が驚いた顔のまま、もう一度誓いの書を開いた。
大聖堂の扉の向こうには、朝の光が差していた。
私は殺された。
少なくとも、リリアはそう信じた。
けれど私は、よみがえった。
自分の魔法で。
自分の意志で。
そして、私を選んでくれた人の隣に立つために。
もう二度と、誰にも奪わせない。
私の名前も。
私の人生も。
私の幸せも。
ポイントを入れていただけると、大きな励みとなります。おもしろければ入れてください。
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こちらの作品もおもしろいと思います。お読みいただければ有難いです。




