第59話「戦国落日、そして朝焼け」
真田幸村の槍が——
黒い太陽の核に突き刺さった。
豊臣秀頼の心臓。
だが——
黒い太陽の重力で、幸村の右腕がねじ切れた。
槍が——
粉々になった。
それでも——
幸村は折れた柄を口で咥えてでも突き進もうとした。
気迫。
秀頼が——
初めて「恐怖」の表情を浮かべた。
「……なぜだ」
秀頼の声が、震えていた。
「なぜ人間ごときが、余の『理』を壊す?」
限界を超えた幸村を——
武田勝頼が優しく受け止めた。
「……十分だ」
勝頼の声が、静かに響いた。
「お前がこじ開けた道、俺が通る」
勝頼は——
幸村が空けた穴へ向けて、自身の全霊力を解放した。
【権能:侵略する火・紅蓮】。
それは——
激しい業火ではなかった。
静かで——
悲しいほど美しい紫の光。
勝頼は——
秀頼を「倒す」のではなかった。
炎で——
「抱きしめた」。
「秀頼」
勝頼の声が、静かに響いた。
「お前は何も悪くない」
勝頼は、続けた。
「……悪いのは、時代だ」
魔王の黒い外殻が——
雪解けのようにボロボロと崩れ落ちていった。
精神世界。
少年・秀頼が——
闇の中で膝を抱えて泣いていた。
そこへ——
炎の中から淀殿が現れた。
彼女もまた——
妄執から解放されていた。
「秀頼」
淀殿の声が、静かに響いた。
「……もう、誰の期待にも応えなくていいのです」
淀殿は、続けた。
「……ただの私の子供にお戻り」
母が——
子を抱きしめた。
二人の魂が——
炎の中で一つに溶け合った。
金色の蝶となって——
空へ昇っていった。
戦闘終了。
静寂が——
戻った。
幸村は——
家康本陣を見据えたまま、槍を杖にして仁王立ちしていた。
徳川家康が——
近づいた。
幸村は——
既に事切れていた。
だが——
その顔は少年のように笑っていた。
「……わしの勝ちではない」
家康の声が、静かに響いた。
「お前が寿命で逃げ切っただけよ」
家康が——
幸村の肩に触れた。
遺体が——
崩れ落ちそうになった。
勝頼が——
支えた。
「……眠れ、幸村」
勝頼の声が、静かに響いた。
「お前の赤は、俺が記憶にする」
影・山県昌景ら武田四天王が——
幻影として現れた。
幸村の魂を——
迎え入れた。
燃える大坂城を鎮火するように——
静かな雨が降り出した。
家康と勝頼——
二人の老雄が並んで空を見上げた。
「……終わりましたな」
家康の声が、静かに響いた。
「何もかも」
「ああ」
勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。
「……行くぞ、家康」
勝頼は、続けた。
「俺たちの仕事は、これからの『平和』を作ることだ」
雲が割れた。
戦国の終わりを告げる——
美しい朝日が、廃墟となった戦場を照らした。




