第57話「天王寺の紅蓮と、砕け散る馬印」
茶臼山、真田本陣。
真田幸村と毛利勝永が——
出陣前の茶を飲んでいた。
「……震えているのか、真田」
勝永の声が、静かに響いた。
「ああ。武者震いだ」
幸村の声が、震えていた。
「……家康殿も、勝頼殿も、そして魔王も、全員俺を見ている」
幸村は、続けた。
「最高の舞台だ」
二人は——
盃を割った。
それぞれの死に場所へ——
向かった。
「俺が露払いをする」
勝永の声が、静かに響いた。
「……お前は、一番太い首だけ見て走れ」
徳川軍の前線。
毛利勝永が——
叫ばなかった。
表情一つ変えず——
流れるような動作で徳川兵の首を飛ばし、銃を撃った。
その姿は——
「戦場の指揮者」。
彼が指差した場所が——
次々と更地になっていった。
恐怖。
「ひぃぃッ! こいつ、息をするように人を殺すぞ!」
徳川兵が、悲鳴を上げた。
この「冷たい殺戮」が——
後の幸村の「熱い突撃」を引き立てた。
「道は開けた!」
勝永が、叫んだ。
「走れ、真田ァ!!」
幸村率いる赤備えが——
開いた穴から家康本陣へ突入した。
そこに立ちはだかる——
二つの巨大な影。
影・内藤昌豊と——
影・高坂昌信。
「ここを通すわけにはいかん」
内藤の声が、静かに響いた。
「……我らの主を守るのが役目ゆえ」
「悪いな、真田」
高坂の声が、静かに響いた。
「ここが袋小路だ」
幸村の突撃を——
内藤が「見えない壁」で受け止めた。
副将の指揮。
高坂が——
「逃げ弾正の術」で絡め取った。
回避不能の迎撃。
幸村は——
ただ叫ぶのではなかった。
「魂を燃やす音」を響かせながら——
物理的に影を焼き切った。
心臓の鼓動。
「邪魔だぁぁぁッ!!」
幸村の**【山県の赤き闘気】**が——
爆発した。
影たちが——
消滅した。
光の粒子となって——
幸村の背中を押した。
「……見事。行け、我らの夢よ」
無言だが——
温かい継承。
幸村の勢いが——
止まらなかった。
ついに——
家康本陣へ到達した。
絶対に倒れぬはずの「金扇の馬印」が——
幸村の衝撃波でゆっくりと泥に沈んだ。
それを見た旗本たちが——
狂乱した。
脱糞、逃亡、錯乱。
その中で——
ただ一人、家康だけが微動だにしなかった。
死神を——
睨みつけていた。
「(素晴らしい……。わしを殺す気で来なければ、魔王は騙せぬ!)」
家康の心の声。
「殿! お逃げください!」
側近が、叫んだ。
「自害の準備を!」
「ならぬ!」
家康が、叫んだ。
「わしが逃げれば、魔王が白ける!」
家康は——
刀を抜いた。
幸村を——
待った。
「来い、小僧!」
家康の声が、響き渡った。
「……わしの命ごと、魔王の喉笛を食い破れ!」
家康と幸村——
二人の視線が交錯した。
刃が届く距離になった——
その瞬間。
大坂城天守が——
轟音と共に爆発した。
ドガァァァン!!
空から——
何かが降ってきた。
**「戦場の重力」**が——
歪んだ。
兵士たちが——
地面に押し付けられた。
武器が——
重くなった。
豊臣秀頼が——
着地した。
その瞬間——
衝撃波で周囲の兵士が破裂した。
敵味方。
「……騒がしい」
秀頼の声が、響いた。
その声は——
脳に直接響くような不快音。
「余の庭で、随分と楽しそうではないか」
家康の喉元数寸で——
止まった幸村の槍。
幸村の全身から——
汗が噴き出した。
極限の集中。
幸村が——
ニヤリと笑った。
「……お待たせしました」
幸村の声が、静かに響いた。
「主役のお出ましだ」
槍の切っ先を——
ゆっくりと反転させた。
神へ——
向けた。




