第55話「裸の城と、あふれ出す冥府」
二条城。
会見。
徳川家康は——
好々爺の顔をしていた。
だが——
その影は異形のように揺らめいていた。
巨大な狸や妖怪。
使者を——
威圧していた。
「堀を埋めれば、徳川は引く」
家康の声が、静かに響いた。
「……埋めねば、明日にも大坂を『焦土』にする」
言葉の端々に——
「絶対的な暴力の匂い」を滲ませていた。
使者が——
恐怖で失禁しそうになりながら、首を縦に振った。
緊迫感。
家康の目が——
笑っていなかった。
「(……承知したな。これで貴様らは『裸』だ)」
本多正信の指揮のもと——
埋め立て工事が始まった。
堀の埋め立て。
生き埋め。
土砂が投げ込まれるたび——
堀の水がボコボコと泡立った。
まるで——
断末魔のような音を立てた。
「埋めろ」
正信の声が、静かに響いた。
「龍の息の根を止めろ」
正信は、続けた。
「……水を一滴も残すな」
聖性。
武田勝頼が——
苦しむ土地の悲鳴を聞いた。
「……すまない」
勝頼が、呟いた。
「魔王を殺すためだ。泥に沈んでくれ」
堀が——
埋まった。
大坂城。
豊臣秀頼は——
「騙された」のではなかった。
「拘束具が外れた」と認識していた。
「ああ……清浄なる水が消えた」
秀頼の声が、静かに響いた。
「これで余の『穢れ』がどこまでも届く」
秀頼の足元から——
影が広がった。
埋め立てられた土砂が——
黒く変色した。
「魔界の湿地帯」へと変貌した。
城そのものが——
脈動する内臓のように蠢き始めた。
禍々しさ。
防御を失った——
浪人たち。
彼らは——
嘆かなかった。
獰猛な笑みを——
浮かべていた。
後藤又兵衛が——
槍で地面を突いた。
埋まった堀。
「ふかふかの土だ」
又兵衛が、笑った。
「……ここで敵を殺して埋めるにゃあ、最高の墓場だぜ」
「城壁はなくなった」
真田幸村の声が、静かに響いた。
「だが、我々自身が『肉の壁』となればいい」
幸村は、続けた。
「……野戦だ。血みどろの舞踏会といこう」
悲壮感など——
なかった。
全員が——
修羅の目になっていた。
慶長二十年夏。
家康が——
鎧を着た。
その顔には——
もう政治家の笑みはなかった。
「総員、抜刀せよ」
家康の声が、静かに響いた。
「……これより行うのは戦ではない」
家康は、続けた。
「『害虫駆除』である」
勝頼、家康、そして背後の大軍団が——
ドス黒く変貌した大坂城へ向けて進軍を開始した。




