第54話「紅蓮の砦と、魂の芝居」
徳川方の先鋒——
井伊直孝率いる赤備え隊が、真田丸へ殺到した。
真田幸村は——
静かに指揮した。
「引きつけろ……まだだ……」
幸村の目が、鋭く光った。
「今だ、撃てッ!」
真田丸の銃眼から——
一斉射撃。
弾丸には——
影・山県昌景の赤き怨念が込められていた。
着弾すると——
爆発した。
周囲を——
焼き払った。
堀に落ちた兵士——
泥が生き物のように足を掴んだ。
逆茂木が——
牙のように肉を食い破った。
幸村の指揮は——
指揮者のように優雅で、かつ残酷だった。
「一番、二番、斉射」
幸村の声が、静かに響いた。
「……ゴミを片付けろ」
攻めあぐねる井伊隊の前に——
幸村が単騎で打って出た。
幸村の全身から——
真紅の闘気が噴き出した。
井伊の兵たちが——
恐怖した。
「ば、馬鹿な……山県昌景は死んだはずだ!?」
「山県は死なん!」
幸村が、叫んだ。
「俺の魂の中で生きている!」
幸村は——
十文字槍を振るった。
数千の兵を——
薙ぎ払った。
その姿は——
日本一の兵。
徳川軍の崩壊を見た——
武田勝頼が動いた。
「……見事だ、幸村」
勝頼が、呟いた。
「だが、やりすぎれば怪しまれる」
勝頼が——
前線に出た。
幸村と——
対峙した。
周囲の兵士は——
「総大将同士の一騎打ちだ!」と盛り上がった。
だが——
二人の間には音のない会話が交わされた。
「派手にいくぞ」
勝頼が、小声で言った。
「……俺を本気で殺すつもりで来い」
「御意」
幸村が、小声で答えた。
「……死んでも恨まないでくだされ!」
激突。
勝頼の紫紺の炎と——
幸村の真紅の闘気が衝突した。
戦場が——
二色に染まった。
光の演舞。
幸村の槍が——
勝頼の首の皮一枚を掠めた。
勝頼の刀が——
幸村の髷を切り飛ばした。
傍から見れば——
「殺し合い」。
だが——
達人同士が見れば「針の穴を通すような制御」が行われている神業。
「(良い腕だ。これなら魔王も騙せる!)」
勝頼の心の声。
「(御屋形様こそ! 衰えるどころか、焼き尽くされそうです!)」
幸村の心の声。
心の声と——
物理的な衝撃音の対比。
その様子を——
大坂城天守から豊臣秀頼が見下ろしていた。
彼は——
戦場の死気を掃除機のように吸い込んでいた。
秀頼の口が——
裂けた。
戦場から立ち上る赤い霧を——
暴食した。
魂。
淀殿は——
隣で人形のように座っていた。
秀頼の食事を邪魔しないよう——
怯えていた。
「良いぞ、真田」
秀頼の声が、静かに響いた。
「よく殺し、よく踊る」
秀頼は、続けた。
「……もっと血を流せ。余の『完全覚醒』の糧となれ」
真田丸を抜けないと悟った——
徳川家康は、次なる手を打った。
南光坊天海が——
砲身に呪符を貼り付けた。
家康が——
導火線に火をつけた。
「……女を狙うは外道だが、相手は魔王だ」
家康の声が、静かに響いた。
「地獄にはわしが落ちる」
発射の瞬間——
空気が震えた。
真田丸の兵士たちが——
鼓膜を押さえてうずくまるほどの衝撃。
ドォォォン!!
砲弾が——
一直線に天守へ突き刺さった。
「女の悲鳴」が——
戦場に響き渡った。
淀殿。
砲撃直後——
秀頼の魔力が乱れた。
大坂城の防御結界が——
霧散した。
勝頼と幸村は——
同時に武器を引いた。
「……決まりだ」
勝頼の声が、静かに響いた。
「講和の時間だぞ、幸村」
「……ええ」
幸村の声が、静かに響いた。
「次は夏の陣でお会いしましょう」
互いに背を向け——
それぞれの陣へ戻った。
「役者」たちの背中。




