第51話「折れた正義の翼と、鬼の退き口」
小早川の裏切りにより——
西軍は総崩れとなった。
大谷吉継が——
自害した。
石田三成は——
崩れゆく陣の中で呆然としていた。
顔に貼り付いていた「血文字の密書」が——
まだ、そこにあった。
三成の元へ——
武田勝頼と徳川家康が歩み寄った。
勝頼は——
刀を抜かなかった。
代わりに——
**【権能:侵略する火】**を放った。
ゴォォォォォ!!
金赤の炎。
だが——
熱くなかった。
炎は——
三成の魂にこびりついた汚れだけを焼き尽くした。
三成の顔に張り付いていた密書が——
灰になって散った。
憑き物が落ちた三成は——
泣き崩れた。
「……私は、あの方の夢を守りたかっただけなのに……」
三成の声が、震えていた。
「いつから『悪夢』を見ていたのですか……」
三成の嗚咽が——
戦場に響いた。
それを見た家康が——
静かに目を伏せた。
哀愁。
「……連れて行け」
家康の声が、静かに響いた。
「せめて武士として裁いてやる」
三成は——
敗者としてではなく、呪いから解放された人間として処刑される道を選んだ。
戦場に残った——
島津義弘率いる薩摩軍。
四方を敵に——
囲まれていた。
「退路はない」
島津の声が、静かに響いた。
「……家康の本陣を突き破り、伊勢へ抜ける!」
島津の目が、鋭く光った。
「チェストォォッ!!」
死兵となった薩摩軍が——
家康の本陣へ向けて自殺的な突撃を開始した。
徳川兵が——
叫んだ。
「ひぃっ! こいつら、笑って死んでいくぞ!」
座禅を組んで死んでいく兵士の死体で——
壁を作った。
義弘が——
その血の道を駆け抜けた。
本多忠勝が——
立ちはだかった。
蜻蛉切が——
義弘の刀と激突した。
ガキィン!!
義弘の刀が——
折れた。
だが——
義弘は折れた刀を投げつけ、拳で殴りかかろうとするほどの気迫を見せた。
「……行け!」
忠勝が、叫んだ。
「貴様のような『魔物』をここで殺すのは惜しい!」
忠勝は——
あえて深追いをせず、その凄まじい背中を見送った。
戦後。
勝頼は——
家康と南光坊天海に詰め寄った。
「勝ったな」
勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。
「このまま大坂へ攻め込み、秀頼を殺すぞ!」
だが——
天海が止めた。
「なりませぬ」
天海の声が、静かに響いた。
「今、幼子の器を壊せば、魔王の魂は霧散し、この『大地そのもの』に憑依します」
天海が——
幻影を見せた。
もし今、秀頼を殺せばどうなるか。
日本列島そのものが——
「信長の顔」に変形した。
富士山が——
噴火した。
大地が——
溶岩で覆われた。
地獄絵図。
「……なるほど」
勝頼が、呟いた。
「星ごと殺す気か、あの魔王は」
「魔王の魂が肉体に完全に固着し、逃げ場を失うまで『熟成』させる必要があります」
天海の目が、鋭く光った。
「……それが約十五年」
「十五年……」
勝頼が、呟いた。
家康が——
引き継いだ。
「その間に、わしは『檻』を作る」
家康が、地図を広げた。
東国。
江戸。
「東国に新たな都『江戸』を創る」
家康の声が、静かに響いた。
地図上に——
隅田川の流れを変え、鬼門に寺を置き、城を中心に「の」の字に堀を掘る計画が示された。
「この国全ての気を『螺旋』で増幅し、一点へ撃ち込む」
家康の目が、鋭く光った。
「……これは都ではない、超巨大な『大筒』じゃ」
螺旋の都。
江戸。
「魔王の肉体的固定」と——
「対魔王用都市・江戸の建設」。
どちらも——
十五年。
「……わかった」
勝頼は、拳を握った。
「十五年後、完成した『檻』の中で、神殺しを行う」
三者の決意と共に——
物語は最終章へと飛ぶ。
「大坂の陣」。




