第48話「襲撃の七本槍と、伏見の古狸」
秀吉没後の大坂城。
石田三成は——
秀吉が残した「負の遺産」を回収・廃棄していた。
過剰な恩賞。
呪いの金。
「狂った黄金を捨て、正常な政治に戻す」
三成の声が、静かに響いた。
「……たとえ、殿下の偉業を否定することになろうとも」
彼は——
「豊臣という家」を守るために、皮肉にも「秀吉らしさ」を全否定する政策をとった。
これが——
秀吉を崇拝する武断派の逆鱗に触れた。
加藤清正や福島正則ら「七本槍」の会合。
彼らにとって——
秀吉の狂気も含めて「俺たちの輝かしい青春」だった。
「三成の奴、殿下の形見をドブに捨てやがった!」
清正が、叫んだ。
「あの小役人は、俺たちの誇りを踏みにじる気か!」
「法」と「情」。
相容れない正義が——
爆発した。
武装蜂起へと繋がる。
三成の屋敷が——
襲撃された。
護衛の島左近が防戦するが——
多勢に無勢。
「三成様、逃げてください!」
左近が、叫んだ。
逃げ場を失った三成が——
向かった先は、最大の政敵・徳川家康の屋敷。
伏見。
側近が——
止めた。
「正気ですか! 徳川は豊臣を乗っ取る気ですぞ!」
「構わん」
三成の声が、静かに響いた。
「家康は『私欲』では動かない」
三成は、続けた。
「彼もまた『秩序』を愛する男だ」
三成の目が、鋭く光った。
「……清正のような『獣』に殺されるより、家康という『理』に賭ける」
伏見城。
家康と武田勝頼の元に——
三成が現れた。
「……わしを頼るとは」
家康が、呟いた。
「豊臣を売り渡す気か、三成」
「違う!」
三成が、叫んだ。
「貴殿を利用して、豊臣の秩序を守るのだ!」
その悲痛な叫びを聞き——
家康は溜息をついた。
「……不器用な男よ」
家康の声が、静かに響いた。
「お主の守りたい『秩序』とやらは、もう死体じゃ」
家康は、続けた。
「腐臭を放っておる」
家康は——
立ち上がった。
「だが、獣が暴れるよりはマシか」
家康の目が、鋭く光った。
「……わしが引き受けよう」
家康は、続けた。
「その腐った死体ごと、面倒を見てやる」
これは——
救済ではなかった。
「政権移譲の宣言」。
追ってきた清正たちが——
家康の屋敷を取り囲んだ。
家康が——
悠々と現れた。
「静まれ」
家康の声が、静かに響いた。
「……三成はわしが預かる」
家康の目が、鋭く光った。
「文句があるなら、この『五大老筆頭』が聞こう」
圧倒的な「格」。
その前に——
清正たちは散るしかなかった。
結果——
三成は命拾いした。
だが——
「佐和山城へ隠居」となった。
失脚。
去りゆく三成の背中を見送り——
勝頼が問うた。
「……家康。これで良かったのか?」
「……泥を被る役が必要です」
家康の声が、静かに響いた。
「秀吉が散らかしたこの国を畳むには、誰かが『悪党』にならねばならん」
家康は——
あえて天下を簒奪する「魔王」の道を歩み始めた。




