第43話「関白の黄金宮と、止まった時計」
京都。
秀吉が建設した新たな拠点——
巨大な宮殿、聚楽第。
すべてが——
金箔と極彩色で覆われていた。
もはや——
日本ではない異国の神殿のよう。
秀吉は——
天皇を招き、「関白」の位を手に入れた。
秀吉は——
武将の鎧ではなく、公家の最高礼装である「衣冠束帯」を纏っていた。
しかし——
その姿は「猿が人間の服を着ている」ような違和感があった。
それでも——
逆らえない「制度の暴力」を感じさせる不気味さがあった。
「ひひ。鎧なんぞ重いだけじゃ」
秀吉が、ニヤリと笑った。
「この『紙切れ』一枚で、徳川も武田もひれ伏すんじゃからな」
東国、甲斐。
数年の月日が流れていた。
復興した街並み。
しかし——
徳川家康の髪には、白いものが混じっていた。
目尻に——
皺が増えていた。
「……ふう」
家康が、立ち上がろうとした。
だが——
よろけた。
「家康!」
武田勝頼が、支えた。
その時——
家康の手は温かく、皮がたるんでいた。
対して——
勝頼の手は氷のように冷たく、硬いままだった。
「……温かい茶が、沁みる歳になりました」
家康の声が、静かに響いた。
「……貴殿の手は、相変わらず冷たいですな」
「……」
勝頼は、黙っていた。
独白。
「俺だけが、永遠にこの歳のまま、友を見送るのか」
恐怖。
聚楽第の奥。
秀吉の側室となった茶々が——
静かに座っていた。
彼女は——
腹を愛おしそうに撫でていた。
だが——
その影が「髑髏」の形に揺らめいていた。
「秀吉などどうでもいい」
茶々の声が、静かに響いた。
「……この子は、あの方の再来」
茶々の瞳には——
信長と同じ赤黒い光が宿っていた。
「世界を焼く『紅蓮の御子』です」
彼女自身が——
信長の狂気を受け継ぐ「魔女」として覚醒していた。
東国、甲斐。
秀吉から——
勝頼と家康のもとに「北野大茶湯」への招待状が届いた。
建前は茶会だが——
実質は「関白への臣従式」。
来なければ——
「朝敵」として討伐する大義名分に使われる。
「……行けば屈服、行かねば戦争」
真田昌幸が、呟いた。
「猿め、嫌らしい手を」
「お市様……申し訳ありませぬ」
柴田勝家が、男泣きした。
「姫様まで、あのような魔窟に……!」
怒りよりも——
守れなかった無念さに泣いていた。
「……連れ戻すぞ」
勝頼が、勝家の肩に手を置いた。
「たとえ魔女になっていたとしても、彼女は織田の血だ」
勝頼は——
決断した。
「秀吉は『金』で世界を塗り固めた」
勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。
「ならば俺たちは『侘び寂び』で対抗する」
心の美。
影・上杉謙信が——
静かに微笑んだ。
「雅な戦か」
謙信の声が、静かに響いた。
「……悪くない。猿に『品格』の違いを教えてやろう」
そして——
千利休という最強の者を味方につける。
「行こう、北野へ」
勝頼が、呟いた。
文化と誇りを懸けた——
「茶会」の幕開け。




