第42話「裂ける大地と、黄金の停戦」
小牧山。
泥の巨神が消えた後——
武田勝頼と徳川家康は、本陣へ突撃した。
「元凶を叩くぞ!」
勝頼が、叫んだ。
「応!」
家康が、頷いた。
迎え撃つ——
羽柴秀吉。
彼は——
全身に黄金の甲冑を纏い、自ら前線に出た。
魔力装甲。
「よう来たのう!」
秀吉が、ニヤリと笑った。
その瞬間——
空間にキラキラと美しい金粉が舞った。
だが——
その一粒一粒が「千両箱」のような質量を持っていた。
触れた者の骨を——
砕いていく。
秀吉の能力——
【黄金の重圧】
「金は重いぞ! 命の重さじゃ!」
秀吉が、叫んだ。
「くっ……!」
勝頼が、膝をついた。
本多忠勝も——
膝をついた。
「くっ……! 物理的な重さではない……」
忠勝が、呻いた。
「これが、人の『欲』の重さか!」
戦闘中。
地下の黒田官兵衛が——
警告した。
「殿! いけません!」
官兵衛の声が、震えていた。
「吸い上げすぎました! 龍が目覚めます!」
だが——
興奮した秀吉は、止まらなかった。
「構わん!」
秀吉が、叫んだ。
「わしが全ての理を飲み込んでやる!」
その瞬間——
世界から音が消えた。
静寂。
直後——
巨大地震が発生した。
天正地震。
地面から——
官兵衛が打ち込んだ杭が次々と吐き出された。
そこから——
赤い蒸気が噴き出した。
大地が——
「痛い! 熱い!」と暴れるように裂けた。
ゴゴゴゴゴゴ……
その裂け目が——
口のように兵士を飲み込んでいった。
「ぎゃああああ!!」
「助けてくれ!!」
敵味方の区別なく——
兵士たちが地割れへと落ちていった。
戦争どころではなかった。
天地が——
ひっくり返るような災厄。
秀吉の黄金の城も——
崩壊した。
官兵衛の採掘装置が——
爆発した。
ドガァァァン!!
自然が——
「人ごときが調子に乗るな」と鉄槌を下した。
混乱の中——
「戦は中止だ!」
勝頼が、叫んだ。
「全員、人を助けろ! 敵兵もだ!」
影の兵士たちが——
互いの腕や肋骨を繋ぎ合わせた。
長い「骨の鎖」となって——
地割れに垂れ下がった。
落ちていく生者たちが——
必死にその「死者の手」を掴んだ。
「掴まれ!」
勝頼が、叫んだ。
「死人は頑丈だ、絶対に千切れん!」
「死神」だと思っていた影たちが——
最も頼もしい「守護者」に見えた。
一方——
秀吉は——
転がり落ちそうになる「黄金の入った葛籠」を支えるために、配下の兵士を蹴り落とした。
その死体を——
緩衝材にした。
「おい、傷がついたではないか!」
秀吉が、叫んだ。
「代わりはおっても、この金は一点物じゃぞ!」
これを見た——
敵味方全員が、秀吉に対して生理的な嫌悪と恐怖を抱いた。
地震が——
収まった。
戦場は——
壊滅していた。
戦える状態ではなかった。
瓦礟の上に立つ秀吉が——
算盤を弾く仕草をした。
「……修繕費、治療費、埋葬費……チッ」
秀吉の目が、鋭く光った。
「大赤字じゃ。撤収!」
感情ではなく——
「損益」で戦争を止めた。
「引き分けじゃ」
秀吉が、ニヤリと笑った。
「……だが忘れるな。日本の半分は、すでにわしの庭じゃ」
去っていく——
黄金の軍勢。
去り際——
家康が、勝頼に呟いた。
「……勝頼殿」
家康の声が、静かに響いた。
「東の空だけは、清浄に保ちましょうぞ」
「……ああ」
勝頼は、頷いた。
勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。
「民の心は、我らにある」
小牧・長久手の戦い——
終結。
だが——
物語は、まだ終わらない。
東西分断。
冷戦の時代が——
始まろうとしていた。




