第41話「枯れる大地と、黒き軍師の盤面」
小牧山の陣。
真田昌幸が——
地面に耳を当てていた。
そして——
顔をしかめた。
「……おかしい」
昌幸が、呟いた。
「地脈が、悲鳴を上げている」
周囲の木々が——
一夜にして枯れ果てていた。
井戸水が——
赤く濁り始めていた。
これは——
単なる干魃ではない。
土地の生命力そのものが——
何者かに吸い尽くされていた。
秀吉軍本陣。
地下深く。
黒田官兵衛が——
巨大な「杭」を地脈に打ち込んでいた。
呪具。
杭は——
脈動していた。
大地の悲鳴のような——
きしみ音を上げていた。
吸い上げられた力が——
管を通って「黄金の泥」として精製されていた。
その過程。
「効率が悪い」
官兵衛が、静かに言った。
「……山の『根』ごと吸い尽くしましょう」
彼の冷徹な計算が——
地上の地獄を生んでいた。
傍らで——
羽柴秀吉が、精製された黄金を齧っていた。
「美味いのう」
秀吉が、ニヤリと笑った。
「大地の脂は最高じゃ」
搾取され続けた大地が——
防衛本能で暴走した。
戦場の泥と枯れ木、死骸が集まり——
巨大な「泥の巨神」となって具現化した。
嘆きの巨神。
ゴゴゴゴゴゴ……
それは——
敵味方の区別なく、地上にいる全ての「害」を排除しようと暴れ回った。
秀吉軍の雑兵たちが——
泥に飲み込まれた。
「ぐあああ!!」
窒息していく。
「ありゃりゃ、資源が勿体ない」
秀吉が、呟いた。
「……官兵衛、あれも手懐けろ」
泥の巨神が——
徳川・武田連合軍にも迫った。
「攻撃せよ!」
兵士が、叫んだ。
だが——
攻撃を受けるたびに、泥の中から声が聞こえた。
「やめて……」
「返して……」
大地の怨嗟。
「……!」
武田勝頼が、躊躇した。
「これは……」
「殿!」
昌幸が、進み出た。
「あの怪物は、官兵衛が乱した『気の流れ』の吹き溜まり」
昌幸の目が、鋭く光った。
「……ならば、流れを変えてやればいい」
昌幸は——
望月千代女と連携した。
戦場の各所に——
「六文銭」を投げた。
六文銭が——
巨大な朱色の光の杭となって、戦場の六箇所に突き刺さった。
龍穴。
「そこだ! 滞った血を抜け!」
昌幸が、叫んだ。
【風水術:龍脈反転】
杭から——
黒い瘴気が噴き出した。
代わりに——
清浄な気が流れ込んだ。
巨神は——
破壊されるのではなかった。
苦しみから解放されて——
土に還った。
浄化。
ドサァ……
秀吉軍本陣。
地下深く。
遠隔で術を破られた官兵衛の——
水晶に罅が入った。
「……真田、ですか」
官兵衛の目が、鋭く光った。
「記録にない『不測の者』」
官兵衛は、続けた。
「……早急に排除せねば」
小牧山の陣。
昌幸が——
冷や汗を拭いながら、遠くを見つめていた。
「……背筋が凍るわ」
昌幸の声が、静かに響いた。
「奴の目は、地図を『解剖図』としか見ておらん」
二人の天才軍師が——
盤面越しに互いを最大の敵と認識した。
だが——
秀吉軍の侵食は止まらなかった。
大地の枯渇。
「このままでは、日本そのものが死ぬ」
勝頼が、呟いた。
勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。
「……打って出るしかない」
勝頼は——
決断を迫られていた。




