第39話「黄金の呪いと、小牧山の獣」
東国。
市場。
最近——
西から奇妙な「黄金の小判」が大量に流入していた。
その小判は——
美しい黄金色だった。
だが——
触れると人肌のように生暖かく、指に吸い付くような不快感があった。
その金を触った商人や民が——
突如として狂乱した。
「よこせ! それは俺の金だ!」
「秀吉様万歳!」
人々が——
互いに争い始めた。
「これは金ではない」
真田昌幸が、看破した。
「人の業を固めた『汚泥』だ」
昌幸の目が、鋭く光った。
「……触れれば心まで腐り落ちるぞ」
影には効かないが——
守るべき生者が内部から壊れていく。
恐怖。
西国、大坂。
安土城の跡地付近に——
秀吉が新たな巨城を建設中だった。
羽柴秀吉は——
信長の残滓と大地の霊脈を吸い上げ、無限に「呪いの金」を生み出していた。
傍らには——
加藤清正。
彼は——
半人半獣の「虎の獣人」と化していた。
その腕は——
変形し、骨の片鎌槍となっていた。
「金で買えんものはない」
秀吉が、ニヤリと笑った。
「心も、命も、忠義もな」
秀吉は、続けた。
「……のう、清正?」
「殿の御為に!」
清正が、咆哮した。
「邪魔する奴は皆殺しじゃあァァ!」
獣化してもなお——
歪んだ忠義に突き動かされていた。
尾張、小牧山。
秀吉軍が——
進軍を開始していた。
狙いは——
徳川と武田の分断。
迎え撃つのは——
徳川家康と武田勝頼の連合軍。
家康は——
土塁と空堀でガチガチに固めた「要塞」を築いていた。
「金が毒だと言うなら、物理的に入ってくる穴を塞ぐまで」
家康の声が、静かに響いた。
勝頼は——
呪いを受けた民を影・上杉謙信の氷で仮死状態にして、進行を遅らせていた。
「くっ……!」
勝頼が、歯噛みした。
前線。
戦闘開始。
秀吉軍の先鋒——
加藤清正が、城壁を素手で登っていた。
兵士を——
食い散らかしていく。
「殿の御為に! 殿の御為に!」
清正の咆哮が、響き渡った。
その時——
本多忠勝が、立ちはだかった。
「忠義ゆえに獣に落ちたか」
忠勝が、静かに言った。
「……憐れな虎よ」
忠勝の蜻蛉切が——
清正に迫った。
「三河の鹿が、その妄執ごと貫いてやる」
物理最強と野生最強。
忠勝の一撃は——
「静」。
不可避の刺突。
清正の一撃は——
「動」。
暴風のような連撃。
ガキィン!!
互いの槍が激突した。
ドガァァァン!!
周囲の地形が——
変わった。
衝撃で——
地面が抉れた。
「ぬぅぅぅ!」
清正が、吠えた。
「くっ……!」
忠勝も、歯を食いしばった。
拮抗。
その時——
後方の徳川・武田軍の中で異変が起きた。
一部の部隊長が——
隠し持っていた「秀吉の小判」に精神を蝕まれた。
味方に刃を向ける。
「俺は金持ちになるんだぁぁ!!」
内部崩壊。
「家康、下がれ!」
勝頼が、叫んだ。
「汚れ仕事は俺がやる!」
勝頼が——
裏切った兵士たちに向かって走った。
刀を抜く。
そして——
影・信玄の炎を刀に纏わせた。
ゴォォォォォ!!
金赤の炎。
「その金は毒だ」
勝頼の声が、静かに響いた。
「……俺の炎で、穢れだけを焼き払ってやる」
勝頼の刀が——
裏切り者を斬った。
ズバァッ!
「あぁ……金が……家族に……」
兵士が、呟いた。
だが——
炎が穢れを焼き払った。
兵士は——
最期に正気を取り戻した。
安らかな顔で——
絶命した。
「人として眠れ」
勝頼が、静かに言った。
「……甘いな、勝頼」
家康が、呟いた。
「だが、嫌いではない」
戦場は——
混乱していた。
外からの敵。
内からの裏切り。
二重の苦境。
「くそ……!」
勝頼が、歯噛みした。
「これが、秀吉の策か……!」
秀吉の悪意が——
全体を支配していた。




