第35話「第六天魔王と、黄泉の王」
天守の深淵。
蘭丸が守っていた扉の奥。
そこは——
城の最上階だが、天井がなかった。
赤黒い異界の空が——
広がっていた。
玉座に——
織田信長が座っていた。
彼は——
一見すると、生前と同じ人の姿。
だが——
その背後には、巨大な炎の骸骨が浮遊していた。
魔神。
「……」
本多忠勝の槍が、震えた。
「殿以外に、これほどの威圧感を放つ男がいるとはな」
忠勝の声が、震えていた。
信長は——
勝頼を見ても、動じなかった。
「遅かったな、勝頼」
信長の声が、静かに響いた。
「……死人の分際で、よくぞ余の寝所まで参った」
「信長」
勝頼が、刀を抜いた。
「貴様を討ち、その呪われた野望を終わらせる」
「野望?」
信長は、嗤った。
「違うな。これは『救済』よ」
信長の目が、鋭く光った。
「人は弱く、醜い」
信長は、続けた。
「だから余が『恐怖』で統べ、魔物に変えて管理してやるのだ」
「ふざけるな!」
勝頼が、叫んだ。
「それは救済ではない、地獄だ!」
「地獄結構」
信長は、杯を傾けた。
「余が王であるなら、そこは極楽よ」
交渉決裂。
真田昌幸が——
先制攻撃の合図を出した。
だが——
その時。
「燃えよ」
信長が、静かに言った。
【権能:天下布武】
虚空から——
火が噴き出した。
「ぐあああ!!」
昌幸が、吐血した。
望月千代女も——
炎に巻かれた。
「きゃあああ!!」
千代女が、倒れた。
瀕死。
生者は——
一言で追い込まれた。
絶望。
「潰れろ」
信長の言葉に従い——
重力が、発生した。
ドガァン!!
地面が、抉れた。
「くっ……!」
勝頼が、膝をついた。
「跪け」
信長が、忠勝に向かって言った。
見えない圧力が——
忠勝を襲う。
だが——
忠勝は、膝をつかなかった。
「拙者の膝を折れるのは、主君・家康公のみ!」
忠勝が、叫んだ。
そして——
蜻蛉切を振るった。
ズバァッ!!
見えない「言霊の圧力」を——
物理的に斬り裂いた。
「……!」
信長が、初めて驚愕した。
「言葉を斬るか」
信長の目が、鋭く光った。
「貴様、本当に人間か?」
信長が——
トドメの言葉を放とうとした。
「死——」
だが——
その時。
勝頼が、動いた。
冥府の門を——
全開にした。
ゴゴゴゴゴゴ……
数万の死者の怨嗟が——
周囲に響き渡った。
「うおおおお!!」
「ぎゃああああ!!」
亡者たちの凄まじい絶叫。
それが——
信長の「命令」を掻き消した。
無効化。
「……!」
信長が、目を見開いた。
「お前の声など!」
勝頼が、叫んだ。
「地獄の合唱に比べれば、蚊の鳴くようなものだ!」
信長の声が——
届かない一瞬の隙。
「今だ!!」
影・上杉謙信が、氷雪で信長の足を封じた。
シュゥゥゥゥ……
信長の移動が——
止まった。
「くっ……!」
信長が、歯噛みした。
背後の炎の魔神が——
動き出した。
だが——
本多忠勝が、それを受け止めた。
「拙者が相手だ!」
忠勝の蜻蛉切が——
炎の魔神と激突した。
ガキィン!!
その道を——
勝頼が疾走した。
信玄の炎を纏って。
ゴォォォォォ!!
「終わりだ、信長!」
勝頼が、叫んだ。
「その呪われた口を、閉ざしてやる!」
勝頼の刀が——
信長に迫った。
「……!」
信長が、目を見開いた。
ズバァッ!!
勝頼の刀が——
信長を斬った。




