第33話「不死身の盾と、奈落への侵入」
美濃国、関ヶ原。
魔砲の着弾直後。
土煙が——
晴れていく。
そして——
徳川家康の本陣は、無事だった。
その前には——
影・馬場信春が、仁王立ちしていた。
だが——
その体は、半身が吹き飛んでいた。
再生が——
追いつかないほど霊核が損傷していた。
だが——
一歩も退いていない。
痛がる様子もなく——
淡々と語った。
その横で——
徳川四天王の酒井忠次と榊原康政が、馬場を支えるように倒れていた。
「勘違いめされるな」
馬場の声が、静かに響いた。
「……貴殿らは『未来』、我らは『過去』」
馬場は、家康を見つめた。
「過去が未来の盾となるは、武士の誉れにございます」
「……!」
家康は、震えていた。
そして——
深く頭を下げた。
最敬礼。
「……見事だ」
家康の声が、震えていた。
「武田の鬼美濃、その魂、徳川が預かった」
安土城。
砲口が——
閉じていた。
冷えを取る様子。
「あれほどの威力、連発はできません」
黒田官兵衛が、分析した。
「次の一撃まで『半刻』の猶予があります」
「半刻か」
羽柴秀吉が、ニヤリと笑った。
「勝頼ちゃん、どうする?」
秀吉の目が、鋭く光った。
「逃げるか? それとも食われるか?」
連合軍本陣。
武田勝頼が、決断した。
「外からの攻撃は効かん」
勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。
「……中に入り、信長の首を直接叩く」
「殿」
真田昌幸が、進み出た。
「城の影に潜り込み、内部へ転移する術を使えば侵入可能です」
昌幸は、扇子を開いた。
「ただし、連れて行ける人数は限られます」
「……わかった」
勝頼は、頷いた。
「選抜を決める」
勝頼は、続けた。
「俺が行く。昌幸、謙信、千代女」
影・上杉謙信が、頷いた。
「承知した」
望月千代女も、頷いた。
「お供します」
「もう一人——」
勝頼が、言いかけた時。
「徳川の代表として、拙者が同行する」
本多忠勝が、前に出た。
「……!」
勝頼は、目を見開いた。
「影の軍団だけでは、聖なる罠や物理必須の敵に対応できぬ」
忠勝の声が、静かに響いた。
「生身の最強を加える」
「フッ、鹿角か」
謙信が、ニヤリと笑った。
「足手まといになるなよ?」
「愚問」
忠勝が、静かに答えた。
「貴公こそ、拙者の背中で凍えるなよ」
夢のような——
最強の組が結成された。
「では、行くぞ」
勝頼が、号令を発した。
外では——
影の山県、影の内藤、影の高坂が、敵を食い止めていた。
「殿の御無事を!」
山県が、叫んだ。
「任せろ!」
内藤と高坂も、叫んだ。
その間に——
勝頼たち精鋭五名は、安土城の巨大な「影」へと飛び込んだ。
ズズズズズ……
転移。
その先は——
城の中というよりは、巨大生物の体内だった。
壁には——
無数の苦悶する人間の顔が埋め込まれていた。
「うぅ……あぁ……」
呻き声が、響いている。
床は——
赤黒い粘液で満たされていた。
ドロドロと——
粘液が蠢いている。
「……吐き気がします」
望月千代女が、口元を抑えた。
「ここは城ではありません」
千代女の声が、震えていた。
「魔王の『胃袋』です」
「……」
勝頼は、黙っていた。
「行くぞ」
勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。
「ここからは……地獄の底だ」
五人が——
前へ進み始めた。
廊下を進む五人。
だが——
その時。
ゴゴゴゴゴゴ……
壁が、動き出した。
そして——
壁から、異形が現れた。
「来たか……!」
勝頼が、刀を抜いた。
「全員、迎撃せよ!」
五人が——
異形と激突した。
ガキィン! ガキィン!
刀と槍がぶつかり合う音が、響き渡る。
忠勝の蜻蛉切が——
異形を粉砕する。
謙信の白銀の剣が——
異形を斬り裂く。
一瞬で——
異形は、倒れた。
精鋭ゆえ。
雑兵では——
相手にならない。
だが——
問題は、城そのものの殺意だった。
天井から——
赤黒い粘液が垂れてきた。
腐れ汁。
「くっ……!」
勝頼が、それを避けた。
そして——
道が、肉の壁で塞がれた。
再生する肉の壁。
「某が斬る!」
謙信が、剣を振るった。
ズバァッ!!
だが——
肉の壁は、すぐに再生した。
「……切り開けぬか」
謙信が、舌打ちした。
「どけ」
本多忠勝が、前に出た。
「……蜻蛉切に、切れぬものなし!」
忠勝が、蜻蛉切を振るった。
ズバァッ!!
一撃で——
肉の壁が粉砕された。
そして——
その傷口が、再生できなかった。
忠勝の闘気が——
流し込まれていた。
「……理外れの強さですな」
昌幸が、呟いた。
「味方でよかった」
「急げ」
勝頼が、号令を発した。
勝頼は——
信玄の炎を解放した。
ゴォォォォォ!!
金赤の炎が、道を切り開いていく。
「親父の火でも、長くは持たんぞ」
勝頼の声が、響いた。
五人が——
走り出した。
そして——
さらに奥へと進んでいく。
魔王・織田信長が待つ——
天守へと。




