第28話「理の果てと、傀儡の涙」
美濃国、岐阜城。
勝頼軍が、城へと突撃していた。
だが——
傀儡兵たちが、次々と自爆攻撃を仕掛けてくる。
ドガァン! ドガァン!
爆発が、響き渡る。
「くっ……!」
影の兵士たちが、苦しんでいた。
「殿!」
真田昌幸が、進み出た。
「奴らは『個』ではなく、織田信忠を核とした『群体』です」
昌幸の目が、鋭く光った。
「敵の中核を討てば、止まります」
昌幸は、扇子を叩いた。
「狂気ですが、理には適っている」
昌幸の声には、不気味さが滲んでいた。
「……崩すのは骨ですな」
「……なるほど」
勝頼は、頷いた。
「高坂!」
勝頼が、叫んだ。
「御意」
影・高坂昌信が、静かに軍配を掲げた。
【権能:静かなる林】
周囲の気配が、消えた。
その隙に——
影・山県昌景と影・仁科盛信が、敵陣を切り裂いていく。
「道を開けろ!!」
山県が、叫んだ。
「任せろ!!」
盛信が、紅蓮の炎を放った。
傀儡兵たちが、次々と倒れていく。
道が——
開かれた。
「行くぞ」
勝頼が、号令を発した。
「信忠を……人間に戻してやる」
岐阜城、本丸。
全身から黒い棘を生やし、異形と化した信忠が待っていた。
「来たか、勝頼」
信忠の声には、感情がなかった。
「……見ろ、この静寂を」
信忠は、周囲を見渡した。
「恐怖も迷いもない、完璧な軍隊だ」
「違う」
勝頼が、静かに言った。
「それは軍隊ではない」
勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。
「ただの道具置き場だ」
「……」
信忠は、何も答えなかった。
そして——
黒い波動を放った。
重力のような、呪い。
ゴゴゴゴゴゴ……
「くっ……!」
勝頼が、膝をついた。
その時——
影・上杉謙信が、前に出た。
「小僧、下がれ!」
謙信の冷気が、黒い波動を防いだ。
シュゥゥゥゥ……
「馬場!」
勝頼が、叫んだ。
「御意!」
影・馬場信春が、盾を構えた。
灰色の盾が、波動を受け止める。
「……!」
勝頼は、その隙に肉薄した。
刀を抜く。
そして——
信忠に斬りかかった。
ガキィン!!
信忠の刀が、勝頼の刀を受け止めた。
激しい剣戟。
信忠の剣は——
速く、重い。
だが——
単調だった。
「信忠!」
勝頼が、叫んだ。
「お前の剣には『誰かのために』という重さがない!」
勝頼は、攻撃を受け流しながら続けた。
「それでは、勝てぬ!」
「重さなど不要!」
信忠が、叫んだ。
「必要なのは『速さ』と『結果』のみ!」
信忠の刀が、勝頼に迫る。
だが——
その時。
影の雑兵が、割って入った。
勝頼を庇って——
信忠の刃を受けた。
ズバァッ!!
影の雑兵が、倒れた。
その鎧には——
お守りの布が結ばれていた。
桂が、結んだもの。
そして——
手入れされた跡が残っていた。
「……!」
勝頼は、目を見開いた。
「見たか、信忠!」
勝頼が、叫んだ。
「こいつらは道具じゃない!」
勝頼の瞳が、激しく輝いた。
「俺と桂が愛した『家臣』だ!」
自我を持たぬはずの雑兵が——
主を守るために自ら動いた。
奇跡。
「な……!?」
信忠が、動揺した。
理が——
崩れた。
その隙を——
勝頼は見逃さなかった。
「……すまない、信忠」
勝頼の刀が——
信忠の胸を貫いた。
黒い棘の核を。
【権能:侵略する火・信玄】
ゴォォォォォ!!
金赤の炎が、信忠を包み込んだ。
浄化の炎。
黒い棘が——
ボロボロと崩れ落ちていく。
そして——
信忠の目から、光が戻った。
ハイライト。
「……ぁ」
信忠の声に——
感情が戻っていた。
城外では——
傀儡化していた美濃の兵たちが、その場に倒れ込んだ。
糸が切れたように。
だが——
死んではいない。
呪いが解け、気絶しただけ。
「……!」
勝頼は、安堵した。
本丸。
人の姿に戻った信忠は、血を吐きながら倒れた。
勝頼が、抱き起こした。
「あぁ……私は、なんということを……」
信忠の目から、涙が溢れた。
「家臣たちを、物のように……」
感情を取り戻したことによる——
罪の意識。
「その悔恨も、俺が引き受ける」
勝頼が、静かに言った。
「お前はもう、休め」
「……」
信忠は、しばらく黙っていた。
そして——
憑き物が落ちたように、微笑んだ。
「……父上を頼む」
信忠の声が、静かに響いた。
「あの人はもう、孤独な化け物だ」
信忠は、勝頼を見つめた。
「……殺して、救ってやってくれ」
「……ああ」
勝頼は、頷いた。
「必ず」
信忠の瞳から——
光が消えた。
息絶えた。
【魂魄抽出開始】
「その類まれな『理知』、捨てるには惜しい」
勝頼が、静かに語りかけた。
「……これからは感情を持ったまま、俺の国を支えてくれ」
【織田信忠の魂を召喚します】
【承諾 / 拒絶】
「承諾」
ズズズズズ……
信忠の魂が、影として蘇った。
【魂魄抽出完了:影の宰相・織田信忠】
【超合理的な軍師・行政官として覚醒】
影・織田信忠が、勝頼の前に跪いた。
その目は——
虚ろではなかった。
理性的だが、静かな熱を宿した瞳。
「……お仕えします、勝頼様」
信忠の声には——
静かな誠実さがあった。
「よろしく頼む、信忠」
勝頼は、頷いた。
美濃国、岐阜城。
勝頼は、天守から西の空を見据えていた。
そこには——
赤い霧が、さらに濃くなっていた。
安土。
信長の本拠地。
「……来るぞ」
勝頼が、呟いた。
そして——
東の空には——
本多忠勝の闘気が、揺らぐことなくプレッシャーを放っていた。
徳川家康。
「……」
勝頼は、拳を握りしめた。
戦場跡。
遠くから、羽柴秀吉が戦場を見つめていた。
「……信忠様が逝ったか」
秀吉の目が、鋭く光った。
「これで織田家の『良心』は、死に絶えた」
秀吉は、ニヤリと笑った。
「後は魔王と獣が踊るだけよ」
秀吉の声には——
底知れなさがあった。
次の時代を——
貪欲に狙う男。
日本が——
混乱していた。
東の勝頼(死)。
西の秀吉(魔)。
中央の信長(王)。
そして——
南の家康(人)。
四つの勢力が——
それぞれの思惑で動いていた。
そして——
勝頼は——
美濃を手に入れた。
だが——
戦いは、まだ終わらない。
最強の敵——
織田信長が、待っている。




