第22話「虎の継承と、新たなる風林火山」
甲斐、恵林寺。
夜。
月明かりの下、勝頼は父・武田信玄の墓所の前に立っていた。
その背後には——
影の四天王が、陣を敷いていた。
影の山県昌景(赤/攻)。
影の馬場信春(灰/守)。
影の内藤昌豊(緑/指)。
影の高坂昌信(青/知)。
四色の光が、勝頼を包み込んでいた。
「行くぞ」
勝頼は、墓石に手を触れた。
その瞬間——
ゴォォォォォ!!
墓石から、炎が噴き出した。
だが——
今回は、違った。
炎は、勝頼を焼かなかった。
影の高坂の「静かなる林」が、炎を鎮めていた。
青い静寂の波動が、炎を包み込む。
「……!」
炎が、弱まった。
そして——
炎の中から、巨大な虎が現れた。
炎の虎。
武田信玄の魂。
虎は、勝頼を見下ろした。
そして——
低く唸った。
『勝頼よ』
信玄の声が、響いた。
『ワシを蘇らせてどうする?』
虎の目が、鋭く光った。
『隠居の老人に指図を仰ぐか? それでは永遠に「信玄の息子」止まりぞ』
その言葉は——
勝頼の甘えを、鋭く突いた。
父なら何とかしてくれる。
そんな依存心を。
「……」
勝頼は、黙っていた。
だが——
その時。
影の四天王が、動いた。
影の高坂が、炎をさらに鎮めた。
影の内藤が、道を切り開いた。
影の馬場が、熱を防いだ。
そして——
影の山県が、虎の喉元に槍を突きつけた。
「御館様!」
影の山県が、叫んだ。
「某らは今、勝頼様の剣!」
影の山県の声が、響き渡った。
「過去の栄光になど、縋りませぬ!」
「……!」
虎——信玄の魂が、驚いたように目を見開いた。
「我らが仕えるは、勝頼様!」
影の馬場が、叫んだ。
「勝頼様こそ、我らが主君!」
影の内藤が、続いた。
「御館様。お引き取りを」
影の高坂が、静かに言った。
家臣たちが——
「信玄」ではなく「勝頼」を選んだ。
それは——
最大の親孝行であり、父への答えだった。
「……」
虎は、しばらく黙っていた。
そして——
静かに笑った。
『……そうか』
虎の声には、安堵が滲んでいた。
『ならば、勝頼。お前はどうする?』
虎は、勝頼を見つめた。
『ワシを部下にするか? それとも——』
「親父」
勝頼が、静かに言った。
「俺は、あんたを部下にはしない」
勝頼は、炎の中へ歩み入った。
「……俺の一部になれ」
勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。
「あんたの強さも、武威も、業も」
勝頼は、虎の前に立った。
「全て俺が背負って、魔王を殺す」
「……!」
虎——信玄の魂が、目を見開いた。
そして——
大きく笑った。
『……ははは! よかろう!』
虎の声が、響き渡った。
『その背中、ワシが死ぬまで——いや、死んでも押してやろう!』
虎が——
弾け飛んだ。
紅蓮の奔流となって——
勝頼の体に吸い込まれていく。
ゴォォォォォ!!
勝頼の全身が、炎に包まれた。
だが——
勝頼は、焼かれなかった。
炎が——
勝頼の一部となっていく。
【魂魄融合開始】
【武田信玄の魂を取り込みます】
【承諾 / 拒絶】
「承諾」
ズズズズズ……
勝頼の体が、激しく振動した。
そして——
勝頼の姿が、変わった。
漆黒の鎧。
そして——
燃え盛る赤いたてがみが、幻影として重なった。
信玄の諏訪法性兜の意匠。
【融合完了】
【権能継承:『侵略する火・信玄』】
【勝頼はあらゆる熱を無効化し、操る力を手に入れた】
勝頼の全身から、紅蓮の炎が立ち上った。
だが——
それは、信玄の炎ではなかった。
勝頼の炎だった。
「……これが」
勝頼は、自分の手を見つめた。
「親父の力……」
勝頼は、拳を握りしめた。
炎が、勝頼の意のままに動く。
「……驚いたな」
影・上杉謙信が、口笛を吹いた。
「あの古狸を喰らったか」
謙信は、ニヤリと笑った。
「面白くなってきたぞ、小僧」
「……ああ」
勝頼は、頷いた。
そして——
影の四天王が、勝頼に対して一斉に平伏した。
「勝頼様こそ、我らが真の主君!」
影の山県が、叫んだ。
「我らは、勝頼様の剣!」
影の馬場が、続いた。
「我らは、勝頼様の盾!」
影の内藤が、叫んだ。
「我らは、勝頼様の知恵!」
影の高坂が、静かに言った。
「……ありがとう」
勝頼は、深く頭を下げた。
そして——
立ち上がった。
勝頼の瞳が、紫紺と紅蓮の二色に輝いた。
「これより甲斐・信濃の全軍をもって、関東を制圧する」
勝頼の声が、夜空に響き渡った。
「行くぞ。天下へ」
影の軍団が、一斉に動き出した。
影の四天王。
影の仁科盛信。
影・上杉謙信。
影・滝川一益。
そして——
数千の影の兵士たち。
最強の軍団が、勝頼の配下にいる。
そして——
勝頼は、信玄の力を手に入れた。
冥府の風林火山。
それが——完成した。
月明かりの下、影の軍団が進んでいく。
その先には——
関東。
そして——
天下が待っている。
織田信長という、最強の魔王が。
だが——
勝頼は、恐れなかった。
「待っていろ、信長」
勝頼の瞳が、激しく輝いた。
「俺が、必ず討ち取る」
勝頼の全身から、紅蓮の炎が立ち上った。
そして——
新たなる戦いが、始まろうとしていた。




