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第21話「逃げ弾正の問いと、父を超える資格」

甲斐、恵林寺。

勝頼は、再び父・武田信玄の墓所の前に立っていた。

「……親父」

勝頼は、墓石に手を伸ばした。

安土での敗北。

森長可の熱量に、影の軍団は焼かれた。

あの熱に対抗するには——

父・信玄の「火」が必要だ。

「今度こそ、俺に従ってもらうぞ」

勝頼は、冥府の力を解放した。

紫紺の光が、墓石を包む。

だが——

その瞬間。

ゴォォォォォ!!

墓石から、炎が溢れ出した。

拒絶の炎。

それは、前回よりも強く——

勝頼の影の手を焼き払った。

「ぐっ……!」

勝頼が、後ずさった。

そして——

信玄の声が、響いた。

幻聴か——それとも、魂の残滓か。

『勝頼よ』

その声は、重く響いた。

『力に溺れ、死人を増やすだけの修羅に、儂は従わぬ』

「……!」

勝頼は、歯噛みした。

「まだ……まだ俺を認めないか、父上!」

勝頼の拳が、震えた。


恵林寺の境内。

勝頼は、悔しそうに拳を握りしめていた。

「殿」

影・内藤昌豊が、勝頼に近づいた。

「信玄公を召喚できませぬか」

「……ああ」

勝頼は、頷いた。

「親父は、まだ俺を認めない」

「……なるほど」

内藤は、静かに頷いた。

「ならば、殿。信玄公の『風林火山』を完成させるには——最後の柱が足りませぬ」

「最後の柱?」

勝頼が、尋ねた。

「ええ」

内藤は頷いた。

「武田四天王の最後の一人——高坂昌信」

「高坂……」

勝頼は、その名を呟いた。

高坂昌信。

通称「逃げ弾正」。

攻めよりも「守り・撤退」を極意とし——

慎重さゆえに信玄が最も信頼した男。

「殿」

真田昌幸が、進み出た。

「高坂様は、信玄公の『林』を体現した方です」

昌幸は、続けた。

「『風林火山』——その中の『静かなること林の如し』を司る方」

「……そうか」

勝頼は、頷いた。

「高坂を呼べば、親父を……」

「ええ」

内藤は頷いた。

「信玄公の荒ぶる炎を、抑えられるやもしれません」

「わかった」

勝頼は、立ち上がった。

「行くぞ。海津城へ」


信濃、海津城。

かつて高坂昌信が守っていた地。

だが——

今は、織田軍の残党が占拠していた。

「森長可の配下か」

勝頼が、呟いた。

城の周りには、織田の旗が立っている。

厳戒態勢。

「殿」

内藤が、進み出た。

「正面から攻めては、時間がかかります」

内藤は、地図を広げた。

「ここから——城の死角を突き、宝物庫へ潜入しましょう」

「……わかった」

勝頼は、頷いた。

「頼む、内藤」

「御意」

内藤は、影の兵士たちに指示を出した。


深夜。

勝頼一行は、城の死角から侵入した。

影の兵士たちが、静かに城内を進む。

「……」

勝頼は、冷静に周囲を見渡した。

かつてなら、焦って突撃していただろう。

だが——

今は違う。

慎重に、確実に。

「ここです」

内藤が、宝物庫の前で立ち止まった。

勝頼は、扉を開けた。

そこには——

高坂昌信の遺品が、納められていた。

数珠。

書物。

そして——古びた兜。

「これを使う」

勝頼は、数珠に手を触れた。

【遺品を触媒として魂魄抽出を実行】

【遠隔地の死者を召喚します】

【承諾 / 拒絶】

「承諾」

ズズズズズ……

数珠が、激しく振動し始めた。

黒い靄が、数珠から噴き出してくる。

そして——

静かに、人の形を成していく。

知的で穏やかな美丈夫。

だが——その瞳には、鋭い知性が宿っていた。

【抽出完了】

【影の参謀・高坂昌信 召喚成功】

影・高坂昌信が、地面に降り立った。

その瞬間——

周囲の空気が、変わった。

静寂。

まるで、森の中にいるような——

穏やかで、それでいて深い静けさ。

影の高坂は、ゆっくりと顔を上げた。

眼窩から、静かな炎が揺らめいている。

そして——

勝頼を冷ややかに見据えた。

「……無様な敗走、と笑う者もおりましょう」

影の高坂が、静かに言った。

「……!」

その言葉に、周囲の空気が凍りついた。

「長篠の時、貴方様は『潔く散る』ことを美徳とされた」

影の高坂は、勝頼を見つめた。

「だが、安土から逃げ帰った今は——どう思われるか?」

「……」

勝頼は、しばらく黙っていた。

そして——

静かに答えた。

「潔さなど、敗者の言い訳だ」

勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。

「俺は泥を啜ってでも生き残り、最後に勝つ」

勝頼は、高坂を真っ直ぐに見た。

「……かつてお前が、誰よりも苦労して『負けない武田』を支えてくれたように」

「……!」

影の高坂の瞳が、揺らいだ。

「撤退戦の殿。補給線の確保。無謀な戦を止める諫言」

勝頼は、続けた。

「お前は、誰よりも苦労していた。俺は……それを理解していなかった」

勝頼は、深く頭を下げた。

「すまなかった」

「殿……!」

影の高坂の顔が、崩れた。

そして——

深く平伏した。

「そのお言葉を、お待ちしておりました」

影の高坂の声が、震えていた。

「引くことを知らぬ猛進のみが、武勇にあらず」

影の高坂は、顔を上げた。

その瞳から——涙が溢れていた。

「殿は、ようやく信玄公も悩み抜いた『臆病の強さ』を手に入れられた」

【忠誠を確認】

【参謀・高坂昌信が麾下に加わる】

【権能『静かなる林』が解放される】

【軍の気配を消し、精神を鎮静化させる能力】

その瞬間——

影の高坂から、青い静寂の波動が広がった。

それは——

周囲の荒ぶる気を、鎮めていく。

影の山県の赤い炎が、静まった。

影の馬場の灰色の気が、落ち着いた。

「これで……」

影・内藤昌豊が、呟いた。

「整いましたな。火を御するのは、林の静寂をおいて他になし」

影の高坂は、立ち上がった。

そして——

勝頼の背後を見た。

そこには——

影の山県昌景(赤/攻)。

影の馬場信春(灰/守)。

影の内藤昌豊(緑/指)。

そして——

影の高坂昌信(青/知)。

武田四天王が——

全員、影として勝頼の背後に並んでいた。

「これにて、『風林火山』の器は整いました」

影の高坂が、静かに言った。

「今こそ、信玄公に挑む時」

「……ああ」

勝頼は、頷いた。

そして——

父の墓所がある恵林寺の方角を見据えた。

「行くぞ」

勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。

「親父に『引導』を渡しにな」

影の四天王が、勝頼の背後に控えた。

山県の赤。

馬場の灰。

内藤の緑。

高坂の青。

四色の光が、勝頼を包み込む。

影の軍団が、動き出した。

そして——

武田信玄との対決が、始まろうとしていた。

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