第19話「長篠の悪夢と、王の決断」
美濃国、織田信忠の陣。
両軍が、対峙していた。
織田軍、一万。
武田軍、五千(影含む)。
「……始めよ」
織田信忠が、静かに号令を発した。
その瞬間——
地面が、揺れた。
ゴゴゴゴゴゴ……
地面から、無数の十字架がせり上がってきた。
「な……!?」
勝頼が、目を見開いた。
十字架が、戦場を囲むように林立していく。
そして——
十字架から、白い光が溢れ出した。
【浄化結界】
「これは……!」
影の山県昌景が、顔をしかめた。
影の兵士たちが、苦しみ始めた。
白い光が、影を焼いていく。
「撃てッ!!」
織田軍の号令が、響いた。
バン! バン! バン!
一斉射撃。
だが——
それは普通の弾ではなかった。
聖水で清められた**「破魔の銀弾」**。
「ぎゃあああああ!!」
影の兵士たちが、次々と蒸発していく。
その光景は——
まるで地獄絵図のようだった。
そして——
勝頼の脳裏に、長篠の光景が蘇った。
武田の騎馬隊が、鉄砲に撃ち抜かれた戦場。
あの時と——同じだ。
「殿!!」
影の山県昌景が、叫んだ。
「ここは某が盾になります! 殿はお逃げください!!」
山県が、前に出ようとした。
死に場所を求めて——
かつてと同じように。
だが——
「止まれ、山県!!」
勝頼の号令が、響き渡った。
その声には——強い意志が込められていた。
山県の体が、強制的に静止した。
「……殿?」
山県が、戸惑った顔をする。
「お前を二度も、無駄死にさせてたまるか」
勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。
「……!」
山県は、目を見開いた。
勝頼は——
長篠の時とは、違っていた。
焦りはない。
面目に囚われてもいない。
ただ——
冷静に、戦場全体を俯瞰していた。
「全軍!!」
勝頼が、号令を発した。
「自我を持たぬ雑兵の影を、全面に展開せよ!!」
「……!」
影の四天王たちが、目を見開いた。
「肉の壁とせよ!!」
勝頼の声が、響き渡った。
影の雑兵たちが、一斉に前に出た。
数千の影が——
盾となって、弾幕を受け止める。
バン! バン! バン!
破魔の銀弾が、次々と影を貫く。
影の雑兵たちが、次々と蒸発していく。
だが——
勝頼は、眉一つ動かさなかった。
ただ——
その「影の壁」の厚みで、弾幕を受け止めていく。
「許せ」
勝頼が、静かに呟いた。
「お前たちの死で、道を切り開く」
影の雑兵たちが、次々と消えていく。
だが——
その犠牲で——
四天王や主力は、守られていた。
「殿……!」
影の馬場信春が、感涙した。
「……我らを、無駄死にさせぬと」
影の内藤昌豊も、静かに頷いた。
「さすがは、勝頼様」
影の四天王たちは——
勝頼の成長に、絶対の信頼を寄せた。
そして——
雑兵の影が蒸発していく中——
一瞬だけ、敵の射撃が途切れた。
装填の隙。
勝頼は、その瞬間を見逃さなかった。
「今だ! 謙信!!」
勝頼が、叫んだ。
「……くくっ」
影・上杉謙信が、ニヤリと笑った。
「良い采配だ、小僧」
謙信は、白銀の剣を抜いた。
「お膳立ては、受け取った」
謙信が——
死体の道を駆け抜けた。
その速さは、神速。
織田軍の兵たちが、気づいた時には——
もう遅かった。
「な……!?」
織田軍の兵たちが、驚愕した。
謙信の白銀の剣が、一閃した。
その瞬間——
聖なる光が——凍てついた。
そして——
物理的に斬り裂かれた。
【権能:『軍神の威光』】
異教の神をも恐れぬ、日本神話級の覇気。
ズバァッ!!
結界の杭——十字架が——
次々と粉砕されていく。
「退け、小僧ども」
謙信の声が、冷たく響いた。
織田軍の兵たちが、謙信に斬りかかる。
だが——
謙信の剣は、止まらなかった。
一振り、また一振り。
織田軍の兵たちが、次々と倒れていく。
「化け物か……!」
織田軍の兵たちが、恐怖に震えた。
謙信は——
まるで戦場を舞うように、敵を斬り続けた。
その美しさと、恐ろしさ。
「これが……軍神……!」
影の山県昌景が、呟いた。
「……ほう」
だが——
織田信忠は、狼狽しなかった。
「南蛮の理すらねじ曲げるか」
信忠の目が、鋭く光った。
「ならば——単純な『質量』ですり潰せ」
信忠が、号令を発した。
「大筒、焙烙玉、用意!!」
その瞬間——
織田軍の後方から、巨大な筒が現れた。
大砲。
そして——
火薬を詰めた焙烙玉。
「撃てッ!!」
ドォォォン!!
爆音が、響き渡った。
爆風と熱量が、影の軍団を襲う。
「ぐっ……!?」
影の兵士たちが、吹き飛ばされた。
聖なる力ではない。
純粋な熱量と爆風で——
影を霧散させる。
「小僧!」
謙信が、勝頼に叫んだ。
「私が敵陣を崩す! その隙に全軍で突撃せよ!」
「……!」
勝頼は、頷いた。
「頼む!」
謙信は、白銀の剣を構えた。
そして——
織田軍の大筒めがけて突撃した。
「止めろ!!」
織田軍の兵たちが、謙信を止めようとする。
だが——
謙信の剣は、止まらなかった。
ズバァッ! ズバァッ!
敵兵を次々と斬り捨て——
大筒の陣へと飛び込んだ。
「させるか!!」
織田軍の母衣衆——精鋭たちが、謙信に斬りかかる。
ガキィン! ガキィン!
謙信の剣が、彼らの刀を弾く。
「くっ……!」
謙信も、無傷ではなかった。
母衣衆の刃が、謙信の肩を斬った。
だが——
謙信は、止まらなかった。
「退け!!」
謙信の一閃が、大筒を真っ二つにした。
ズガァン!!
大筒が、爆発した。
爆風が、織田軍の後方を襲う。
「ぎゃああああ!!」
織田軍の兵たちが、吹き飛ばされた。
「今だ! 全軍、突撃せよ!!」
勝頼が、号令を発した。
影の軍団が、一斉に動き出した。
織田軍の陣形が——崩れ始めた。
「くっ……!」
織田信忠が、歯噛みした。
「……これ以上の消耗は、父上の本戦に響く」
信忠は、冷静に損得を量った。
「全軍、撤退せよ!!」
信忠が、号令を発した。
織田軍が——整然と撤退を始めた。
追撃不可能なほど、完璧な撤退。
「勝頼」
信忠が、勝頼を見た。
「貴様の首は、安土で父上が待っている」
信忠の声が、静かに響いた。
「……せいぜい死に場所を探して来るがいい」
その言葉は——
捨て台詞ではなかった。
不気味な予言。
信忠は、完璧に撤退していった。
戦闘終了。
勝頼は、戦場を見渡した。
影の雑兵の多くが、消滅していた。
影の四天王も、傷だらけだった。
そして——
謙信も、肩に傷を負っていた。
「謙信……」
勝頼が、謙信に近づいた。
「ふん。かすり傷だ」
謙信は、傷を気にせず言った。
「それより、小僧。良い采配だったぞ」
「……ありがとう」
勝頼は、深く頭を下げた。
「お前がいなければ、勝てなかった」
「当然だ」
謙信は、ニヤリと笑った。
「私は、軍神だからな」
影の四天王たちが、勝頼に近づいた。
「殿」
影の山県昌景が、勝頼に言った。
「ありがとうございます」
山県の声には、感謝が滲んでいた。
「我らを、無駄死にさせぬと」
「……当然だ」
勝頼は、静かに言った。
「お前たちは、俺の剣だ」
勝頼は、影の四天王を見渡した。
「無駄には、しない」
「……!」
影の四天王たちは、深く頭を下げた。
絶対の信頼。
そして——
絶対の忠誠。
「行くぞ」
勝頼が、号令を発した。
「安土へ向かう」
影の軍団が、動き出した。
そして——
織田信長との決戦が、近づいていた。




