第15話「紅蓮の弟、高遠に咲く」
信濃国、高遠城跡。
徳川の追撃を振り切り、勝頼一行は焼け落ちた城の前に立っていた。
かつて、ここには立派な城があった。
だが今は——
焼け焦げた石垣と、崩れた壁だけが残っている。
「……ここが」
勝頼は、静かに呟いた。
「五郎が、散った場所か」
高遠城。
織田信忠率いる五万の大軍に対し、弟・仁科盛信が三千の兵で籠城し、玉砕した地。
「殿」
真田昌幸が、そっと近づいてきた。
「お気を確かに……」
「……ああ」
勝頼は、小さく頷いた。
そして——
城跡の奥へと歩を進めた。
その時——
勝頼の目に、異様な光景が飛び込んできた。
季節外れの赤い桜が、狂い咲いていた。
焼け焦げた城の中で、一本の桜の木だけが——
真紅の花を咲かせていた。
「……五郎」
勝頼は、その桜の木に近づいた。
ここが——
盛信が自刃した場所。
「裏切り者ばかりのこの世で……」
勝頼の声が、震えた。
「お前だけが、俺の盾となってくれた」
勝頼は、桜の木に手を触れた。
その瞬間——
涙が、溢れ出した。
「五郎……すまない……!」
勝頼の悲痛な叫びが、夜空に響いた。
「俺は……お前を見捨てた……!」
勝頼は、桜の木に額を押し付けた。
「すまない……! すまない……!!」
その時——
ゴゴゴゴゴゴ……
大地が、揺れた。
桜の花びらが、渦を巻き始めた。
「な……!?」
真田昌幸が、目を見開いた。
地面から——
黒い影ではない。
紅蓮の炎が、噴き出してきた。
その炎は、まるで生きているように渦を巻き——
桜の木を包み込んでいく。
「これは……!」
勝頼が、後ずさった。
炎の中から——
人の形が、現れ始めた。
若武者。
体中に矢が刺さり、鎧は砕けている。
だが——
その瞳は、澄んでいた。
影・仁科盛信。
炎の中から、若武者が歩み出てきた。
そして——
勝頼の姿を見た瞬間。
「……兄上……!」
盛信は、崩れ落ちるように膝をついた。
そして——男泣きした。
「兄上……! ご無事でしたか……!」
盛信の声が、震えていた。
「五郎は……この五郎は、兄上をお守りしきれず……!」
盛信は、地面に額を擦り付けた。
「申し訳ございません……! 申し訳ございません……!!」
「……五郎」
勝頼は、盛信に駆け寄った。
そして——
盛信を抱きしめた。
「謝るな」
勝頼の声が、優しく響いた。
「お前のおかげで、俺は今ここにいる」
「兄上……!」
盛信は、勝頼にしがみついた。
そして——声を上げて泣いた。
「兄上……! 兄上……!!」
豪快で、熱血漢の盛信が——
兄の前では、誰よりも甘え、慕う「弟」の顔を見せていた。
しばらくして——
盛信は、涙を拭った。
そして——立ち上がった。
「兄上」
盛信の全身から、紅蓮の炎が立ち上った。
その熱量は、周囲の影の兵士たちすら圧倒するほどだった。
「この命、とうに捨てたもの」
盛信は、刀を抜いた。
「これより先は、兄上の『最強の盾』となりて、地獄の果てまで焼き尽くしましょう」
【影の護将・仁科盛信 召喚成功】
【階級:護将 / 特性『紅蓮の城壁』を保持】
【権能『紅蓮の城壁』が解放される】
【炎による広範囲攻撃と、絶対防御を兼ね備えた能力】
盛信の周りに、赤い火の粉が舞い始めた。
いや——それは火の粉ではない。
桜の花びらだった。
紅蓮の炎と、桜の花びらが——
まるで盛信の命のように、舞い続けていた。
「五郎……」
勝頼は、盛信を見つめた。
「お前が、戻ってきてくれた」
「はい」
盛信は、満面の笑みを浮かべた。
「五郎は、いつまでも兄上の弟です」
勝頼は、盛信の肩を叩いた。
「行くぞ、五郎」
「はい!」
盛信は、力強く頷いた。
翌日。
勝頼一行は、信濃の山々を越えて北へと向かっていた。
影の軍団の数は、さらに増えていた。
高遠城で散った兵たちも、影として蘇っていた。
そして——
その中心には、紅蓮の炎を纏った仁科盛信がいた。
「兄上」
盛信が、勝頼に並んで歩いていた。
「次は、どこへ?」
「越後だ」
勝頼は、北の空を見据えた。
「軍神・上杉謙信を呼び起こす」
「謙信様を……!」
盛信が、目を見開いた。
「あの方を、影になさるおつもりですか?」
「ああ」
勝頼は頷いた。
「魔王・信長を討つには、神の力が必要だ」
勝頼の瞳が、紫紺に輝いた。
「謙信なら——魔王と戦える」
「……なるほど」
盛信は、ニヤリと笑った。
「面白い! では、五郎も手伝いましょう!」
盛信の全身から、炎が立ち上った。
「謙信様を影にして、信長を討つ!」
盛信は、拳を握りしめた。
「兄上と五郎で、天下を獲る!」
「ああ」
勝頼は、盛信と並んで歩いた。
「五郎、今度こそ二人で天下を獲るぞ」
勝頼と盛信が、並んで歩いていく。
その背後には——
影の軍団が、静かに従っていた。
影の山県昌景。
影の馬場信春。
影の内藤昌豊。
影の穴山梅雪。
そして——
影・仁科盛信。
最強の将たちが、勝頼の配下にいる。
月明かりの下、影の軍団が北へと進んでいく。
そして——
越後の地が、近づいてきていた。
軍神・上杉謙信。
その魂を手に入れるため——
勝頼は、進み続けた。




