その6
6
「・・・丈夫か?」
「・・・おい、大丈夫か?」
水が口に流れ込んでくる。
この声は、自分に向けられたものか?
「お、気がついたな、脱水症状で倒れたんだ」
コ・シルマが意識を取り戻すと、ヘッペスタン人と思しき男が目の前にいた。
「あんた、俺たちを助けてくれたんだろう?」
「恩に着るよ、俺はヘンリー・ボンド、あっちのクールなご婦人はアリス・エマヌエル、そしてこちらの明るいレディは・・・」
「わたしはマナン・・・・メロスのマナン・コタイメ」
その名乗りを聞いて、先ほどの力に得心した。
- メロスに生き残りがいたのか、我らと違って随分開放的だな -
ボンドとエマヌエルの前で、隠す事無く能力を用いていたオープンさには、感心すると共に呆れかえった。
レビドの民が、そんな事をしたら、命がいくつあっても足りないと知っているからだ。
そう考えていると、エマヌエルと呼ばれる女性が声をかけてきた。
フランクなボンドや、おおらかなマナンとは異なり、露骨に警戒の色を浮かべていた。
「おい、君・・・彼女に特殊な能力がある事を見ただろう?」
「その身が大事なら、この事は絶対に口外するな、分かったか?」
「念のため、君の身分確認をさせてもらう、いいな?」
エマヌエルはそう言うと、身分証明書の提示を求めてきた。
その振舞いは、典型的なヘッペスタン人のそれである。
コ・シルマは念のため持ち歩いていた、偽造の身分証明書を提示した。
レビドの里で予め用意していた、本物と違わぬ身分証明だ。
「ふむ・・・フェニス・ラーチオ 旧ヘッペスタン南欧州区出身」
「お前、軍属でもないのに、かなり腕が立つな?」
ジロジロと、エマヌエルはコ・シルマの顔を眺め回した。
コ・シルマの顔立ちは端正と言って良いが、正直多数の人種の血が混ざった混血のように見える・・・本当は純粋に近いレビド人なのだが。
「母方の祖先が極東の出で、さっきの武道はその縁で学んだんだ」
コ・シルマは予め用意していた設定を口にする。
恐らく彼女は軍属だ、ヘッペスタンの上級軍属に人気の極東の武道がらみなら納得するだろうという読みだった。
「なるほど、合気術だな! 私も学んでいたからな」
「それにしても、なかなかの腕ではないか!」
「後で、少し教えてくれないか? フェニス!」
エマヌエルは警戒を解き、コ・シルマの武術に興味津々となる。
どうやら、読みは的中したようだ。
こうして、コ・シルマ改め、フェニスは彼らと当面の間、同行する事になった。




