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露神の拳  作者: 齋藤十二
4/11

その4



ボンドとマナンが温泉に入っている間、エマヌエルは食事の準備をしていた。


マナンは屈託なくボンドに話しかけ、ボンドも普通に受け答えしている。

声だけ聴く分には、互いが裸になって温泉に浸かっているとは思えない雰囲気だ。


「あ、ボンドのそこ大きくなった」

マナンの感心したような声が聞こえて、エマヌエルは手に持っていた道具を取り落とす。


「おい、マナン・・・ヘッペスタンだと、そういうことを大声で言うべきじゃないんだ」

ボンドも慌てて嗜める。


「そうか、でも聞いてたとおりで、面白い!ちょっと触っていいか?」

「そのかわり、あたしも見せるから、おあいこだろう?」

「それにここはヘッペスタンじゃないから大丈夫だ!」


なんとも天真爛漫なマナンに、ボンドも振り回されているようだ。


しかも、マナンは、その子供っぽい振舞いに似合わず、かなりの美女だ。

・・・加えて、なかなか大人っぽい。


黙って、大人しくしていれば、二十歳くらいの相応の女性なのだ。


エマヌエルは思わず二人の姿を想像してしまう。

そして、その都度、それを頭から追い払うのだ・・・おかげで、ぜんぜん食事の準備が進まなかった。



温泉から上がって来たボンドが、くたびれ果てたといった目で、エマヌエルを見た。


「・・・ごくろうさま」


エマヌエルは、目で返す。




「囲いを立てておいた、ゆっくり入ると良い」


「ありがとう、そうするわ」


そして、短く言葉を交わした。




***




ゆっくりと温泉につかり、食事も終えたマナンは眠たくなったらしく、ボンドの膝の上でスース―と寝息を立てている。



「無邪気なものね、私がこの子の年頃の時は、こんなこと出来なかったわ」

呆れるというか、感心するというか、そんな口調でエマヌエルが言う。



「この子は、ヘッペスタンの常識で計るべきものじゃないよ」

「それより、気がついてたかい?」

「メロスの民の不思議な力っていうのは・・・劣情や欲情が源のように思える」


ボンドの言葉は意外だった。

通常、イメージされる念動力というのは、怒りだったり意思の力だったり思われがちだ。

ところが、実際には劣情や欲情の可能性が高いという。



「え?」

「・・・じゃあ、前に見たサイコキネシスみたいな力も?」


「ああ、だから彼女は裸になったんだ」

「あの場合は、羞恥心だったんだろうね」



「意外というか、ちょっと、それって超常の力としては、間抜けに感じるわね」

エマヌエルは、正直、落胆したような口調で言う。


「・・・でも、考えてごらんよ」

「怒りって、憎しみと違って、爆発的だけど持続するパワーは弱そうだ」

「それに憎しみや悪意が、実体化する力になるなんて、想像もしたくないし」

「じゃプラスの感情はといえば、危機的状態の時、それを発揮するのは難しい・・・」


「・・・そう考えると」

「羞恥や劣情それに欲情は案外安定しているのかも・・とも思える」

「結局、それが選択されて進化してきたのかも知れないとね」

「自然の意図なんて、人間には計り知れないからね」


存外、真面目な表情でボンドが言う。



常識的な価値観からすると、一見、滑稽で変態的ではあるが、案外人間にとって、強い力の源なのかも知れないし、何か、理性を纏ったかのように振舞う人間という生物に対する、創造主の皮肉にも、ボンドには感じられた。


おおらかな、マナンの方がよほど自然な生き方をしていると。


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