その3
3
最初に出会ったスタビネシアンが、探し求めていたメロスの民だったことは、極めて幸運な事だった。
逆を言えば、スタビネシアン自体の人口が激減しているのだろう。原因は長期に渡るヘッペスタンによる乱獲と迫害だろうが・・・。
スタビネシアンの男女は美しく、愛玩用の性奴隷として高値で売れる。
法律では人身売買は禁じられていたが、AI「ソピア」の分類上、スタビネシアンは人ではないのだ。それ故厳しい処罰も難しかった。
それに疑問を感じる向きも多かったが、ヘッペスタンの民は過去に人類が、感情に流されて失敗した経験から脱却できず、その感覚的違和感を黙殺し続けた。
帰る故郷も無いマナンは、エマヌエルから見ると、不用心かつ随分軽い感じでボンドについてきた。
車中でも、野宿の際も、素直にボンドやエマヌエルの言う事を聞き、周辺の環境に詳しいせいか、とても役に立った。
元々、ややお堅い性格のエマヌエルだが、素直なマナンとは随分馴染んできたようだ。
ボンドが水を汲みに行っている間、エマヌエルとマナンが食事の準備を進める。
今では手慣れた共同作業だ。
「ねぇエマ、お前はボンドの子を産むのか?」
マナンが突然尋ねた。
驚いたエマヌエルが食器を取り落とした。
「何を突然!」
「そんなに驚く事か?」
「エマは、あたしがボンドに触れている時、いつも怒っているだろう?」
キョトンとした貌でマナンが言う。
「怒っている?? 私が???」
「まさか・・・マナン、あなたずっと勘違いしてたの?」
エマヌエルにとっては、まったく心当たりの無い事である。
「気にする必要なんてないわ、気にせず彼に触れていれば良いわ」
当然といった口調でマナンに返した。
「そうか、ありがとう、エマ」
「欲しくなったら言って、独り占めはしない」
マナンが屈託のない笑顔を浮かべた。
・・・おおらかというか、なんというか
エマヌエルは却って毒気が抜かれた気分になる。
そういえば、任務とはいえ、男性と一緒に夜を過ごすことはあまりない。
特に、品行方正なヘッペスタンは、公の場ではほとんど身体上の接触は無い。
性的な嫌がらせは、ヘッペスタンとして最も軽蔑される行為の一つなのだ。
だが、ヘッペスタンの実情として、法の外での性奴隷の横行や性交の売買は後を絶たない。
また、出生率も極端な低下傾向が見受けられ、人口の減少も目立っている。
もっとも「ソピア」の理想とする適正人口は、もう少し少ないものだ。
エマヌエル自身としては、労働人口の少なさに不安を覚えるが、「ソピア」が弾き出した適正人口に間違いがあるとも思えない。
だが、マナンを見ていると、ふと、ヘッペスタンに歪みのようなものを感じてしまうのだ。
「おお~い! 面白い場所をみつけたぞ!」
ボンドが息を弾ませて戻って来た。
「温泉だ、温泉がある」
ヘッペスタンの人工都市を出てからというもの、沐浴やシャワーはご無沙汰だ。
簡易シャワーの装置はあるが、水が貴重なのでおいそれとは使えない。
だから、エマヌエルにとっても、それは嬉しい事だった。
「場所的に、危険は無いのか?」
逸る気持ちを抑え、冷静に確認する。
「まず問題は無いだろう、まず俺が入ってみるよ」
そう言うと、マナンもついてくると言う。
「まぁ、ともあれ、3人で、車に乗って行こう」
順番は、着いてから決める事にして、まずは温泉に向かった。
なるほど、足場も悪くなく、周囲に危険と思われる者もなさそうだ。
ただ、見晴らしが良いので、丸見えなのが気にかかる。
「君たちが入るときは・・・これで囲うとするか」
ボンドが用意したのは、テント用の柱と布だった。
「安全確認を兼ねて、まず僕が入る」
「囲いは安全を確認した後でするよ」
「君たちは向こうでも向いて、食事の準備でもしていてくれ」
そう言うので、まずはボンドに入ってもらうことにする。
どうせ男の風呂は短いのだ。
「じゃ、あたしも一緒に入る!」
マナンがそう言うと、既に服を脱ぎ始める。
「おいおい!!」
一瞬慌てるボンドだが、マナンがあまりにも堂々としているので、抵抗を止めた。
「分かった、じゃ後は頼む・・・エマヌエル」
ボンドはそう言って服を脱ぎ始めた。
ヘッペスタンでは一番良識があるであろうエマヌエルだが、ここではそこはかとない疎外感を覚える。
- どうせなら、一緒に入っても -
一瞬、そんな考えが浮かんで、慌てて打ち消した。




