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露神の拳  作者: 齋藤十二
3/11

その3



最初に出会ったスタビネシアンが、探し求めていたメロスの民だったことは、極めて幸運な事だった。


逆を言えば、スタビネシアン自体の人口が激減しているのだろう。原因は長期に渡るヘッペスタンによる乱獲と迫害だろうが・・・。


スタビネシアンの男女は美しく、愛玩用の性奴隷として高値で売れる。

法律では人身売買は禁じられていたが、AI「ソピア」の分類上、スタビネシアンは人ではないのだ。それ故厳しい処罰も難しかった。


それに疑問を感じる向きも多かったが、ヘッペスタンの民は過去に人類が、感情に流されて失敗した経験から脱却できず、その感覚的違和感を黙殺し続けた。




帰る故郷も無いマナンは、エマヌエルから見ると、不用心かつ随分軽い感じでボンドについてきた。


車中でも、野宿の際も、素直にボンドやエマヌエルの言う事を聞き、周辺の環境に詳しいせいか、とても役に立った。


元々、ややお堅い性格のエマヌエルだが、素直なマナンとは随分馴染んできたようだ。



ボンドが水を汲みに行っている間、エマヌエルとマナンが食事の準備を進める。

今では手慣れた共同作業だ。


「ねぇエマ、お前はボンドの子を産むのか?」


マナンが突然尋ねた。

驚いたエマヌエルが食器を取り落とした。


「何を突然!」



「そんなに驚く事か?」

「エマは、あたしがボンドに触れている時、いつも怒っているだろう?」

キョトンとした貌でマナンが言う。



「怒っている?? 私が???」

「まさか・・・マナン、あなたずっと勘違いしてたの?」

エマヌエルにとっては、まったく心当たりの無い事である。


「気にする必要なんてないわ、気にせず彼に触れていれば良いわ」

当然といった口調でマナンに返した。



「そうか、ありがとう、エマ」

「欲しくなったら言って、独り占めはしない」

マナンが屈託のない笑顔を浮かべた。



・・・おおらかというか、なんというか

エマヌエルは却って毒気が抜かれた気分になる。



そういえば、任務とはいえ、男性と一緒に夜を過ごすことはあまりない。

特に、品行方正なヘッペスタンは、公の場ではほとんど身体上の接触は無い。

性的な嫌がらせは、ヘッペスタンとして最も軽蔑される行為の一つなのだ。


だが、ヘッペスタンの実情として、法の外での性奴隷の横行や性交の売買は後を絶たない。

また、出生率も極端な低下傾向が見受けられ、人口の減少も目立っている。


もっとも「ソピア」の理想とする適正人口は、もう少し少ないものだ。

エマヌエル自身としては、労働人口の少なさに不安を覚えるが、「ソピア」が弾き出した適正人口に間違いがあるとも思えない。


だが、マナンを見ていると、ふと、ヘッペスタンに歪みのようなものを感じてしまうのだ。




「おお~い! 面白い場所をみつけたぞ!」


ボンドが息を弾ませて戻って来た。


「温泉だ、温泉がある」



ヘッペスタンの人工都市を出てからというもの、沐浴やシャワーはご無沙汰だ。

簡易シャワーの装置はあるが、水が貴重なのでおいそれとは使えない。

だから、エマヌエルにとっても、それは嬉しい事だった。


「場所的に、危険は無いのか?」

逸る気持ちを抑え、冷静に確認する。


「まず問題は無いだろう、まず俺が入ってみるよ」

そう言うと、マナンもついてくると言う。


「まぁ、ともあれ、3人で、車に乗って行こう」

順番は、着いてから決める事にして、まずは温泉に向かった。


なるほど、足場も悪くなく、周囲に危険と思われる者もなさそうだ。

ただ、見晴らしが良いので、丸見えなのが気にかかる。



「君たちが入るときは・・・これで囲うとするか」


ボンドが用意したのは、テント用の柱と布だった。




「安全確認を兼ねて、まず僕が入る」

「囲いは安全を確認した後でするよ」

「君たちは向こうでも向いて、食事の準備でもしていてくれ」


そう言うので、まずはボンドに入ってもらうことにする。

どうせ男の風呂は短いのだ。


「じゃ、あたしも一緒に入る!」

マナンがそう言うと、既に服を脱ぎ始める。


「おいおい!!」

一瞬慌てるボンドだが、マナンがあまりにも堂々としているので、抵抗を止めた。


「分かった、じゃ後は頼む・・・エマヌエル」


ボンドはそう言って服を脱ぎ始めた。


ヘッペスタンでは一番良識があるであろうエマヌエルだが、ここではそこはかとない疎外感を覚える。



 - どうせなら、一緒に入っても -



一瞬、そんな考えが浮かんで、慌てて打ち消した。


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