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露神の拳  作者: 齋藤十二
2/11

その2



「エマヌエル少佐、君の任務はボンド博士の護衛というより・・・」

「メロスの民やレビドの民の発見・接触と、その協力を得る事だ」

「・・・そのために、いかなる手段も厭うな」

「そして、彼らの持つ力の事は、口外を禁じる」

「彼らの力は、我々が与り知るべきものの範疇を超えているからだ」


この任務を受けた際、ワット大将は、そう言った。


しかも、この任務は公式の記録にさえ残らないものだという。

表向きは、ボンド博士の監視と警護、それと人狩りの動向調査報告となっている。


また、任務の報告は口頭のみで行い、途中の電子報告の類は一切禁じられ、任務内の裁量は、戦時待遇、戦闘時の殺人は罪に問われない・・・というほどだ。


そして、目的を達成の際は、如何なる電子報告もせず、直接ワット大将の所へ赴き、口頭報告すべし・・・と徹底したものだった。




***




ボンドはもう、さっき出会ったばかりの「メロスの民」と、良好なコミュニケーションを取り始めていた。娘の扱いが異様に上手いように見え、少し複雑な気分になる。


「博士、貴方はどこまで知っている?」

「あの力は一体なんだ?」


ボンドの腕を引っ張って、エマヌエルは思わず問い質す。


「僕も貴方が知る事と大差ないよ」

「メロスの民やレビドの民の発見・接触と、その協力を得る事・・・」

「これが唯一無二の任務だし、僕の目的でもある」

「彼らの偉大な力の秘密が、僕は知りたいだけさ」

「いつしか失ってしまった、人が本来持っていた『真の力』ってやつをさ」


ボンドはそう言って、ニッコリ笑う。

いかにも学究の徒らしい物言いである。


エマヌエルも、そこで引き下がるしかなかった。



***



マナンが言うには、ここから半日ほどの距離にマナンが生まれ育った小さな集落があったが、病や寿命で次々と死んでいき、数日前、母親が亡くなった事で独りになり、別の集落を探す準備を始めていたということだった。


「ごめん・・・僕はデリカシーの無い事を言ってしまったようだね」


ボンドが、心から済まなそうな顔をしてマナンに詫びる。

助けてもらったお礼に、集落に医薬品を寄付すると言った発言をしていたからだ。


「気にしてない」

「だから、そんな顔しなくていい」


そう言ってマナンが笑うと、ボンドがそっとマナンを抱き寄せた。

エマヌエルが見ても、まったく嫌らしさの無い、優しい仕草だった。

マナンは、一瞬驚いたが、すぐに安心して目を閉じた。


「ボンドは温かい、だから心地よい」

マナンが静かに言う。


「僕らはね、レビドの民も探しているんだ」

「・・・もし、良ければ、僕たちと一緒に来るかい?」



「うん」


ボンドの問いに、マナンはすぐに、そう答えた。



ボンドには邪な気持ちがまるで見えない、純粋に孤独になったマナンを案じている。

なるほど、こういうタイプの女殺しもいるのだな・・・エマヌエルは思った。


そして、本来理知的な性質のヘッペスタンのエリートとしては、随分と情動の扱いに長けているとも感じた・・・そう、不自然なほどに。




***




そもそも、人類が世界の管理をAI「ソピア」に託したのは、複雑化する世界を保つには、人間の知性は、欲得や衝動に対し、あまりにも脆すぎるという自己反省の結果からだ。


理性的で公正な判断、客観性・・・それらの確保が理想社会の維持に繋がる。

結果、ソピアに従った「ヘッペスタン」は文明を進化させ、それに反対した「スタビネシアン」の文明は衰退の道を辿り、今に至る。


だが、ここに至って、失われた古き民の末裔を探せと言う。

そして、エマヌエルが見た「その力」は、とても普通の人間のものではなかった。

この『力』を一体何に使うのだろう・・・やはり軍事か?


エマヌエルは一瞬考え込んだが、それをやめた。

命令実行中の軍人が考えるべき事ではないからだ。




***




いろいろな事があったその日は、マナンの村で夜を明かすことにする。

マナンが蓄えていた食料で、その日の夕食が振舞われる。


「持っていけないものは、ここで食べよう」


そう言って、マナンが調理を始めた。

こういう文化に慣れているらしいボンドがマナンを手伝う。

家事はさっぱりであるエマヌエルは、黙って見ているしかない。


出来上がった夕食は、見た目こそ風変わりだが、味としては悪くない。


「うん、美味しいな」


エマヌエルが正直に言うと、マナンがボンドと一緒に喜んでいる。

エマヌエルは、マナンの素直さが少し眩しく感じた。


食事を終えると、ボンドが村人の墓に花を手向けたいと言った。

いつの間にか、花の咲いている場所を見つけたらしい。


「食事と宿を貸してもらうんだ、ご挨拶くらいしなきゃ」


そう言って、手折った花を墓に添え、祈りを捧げた。




夜、囲炉裏の火を囲んで互いの話を少しする。


色んな話をして、時々マナンが笑う、ボンドの会話が上手だからだろう。

そして、夜は冷え込むため、囲炉裏の火のある部屋で、三人は眠りを取る。

マナンはいつの間にかボンドに馴染み、身体を寄せて眠っていた。


その様子を淡々と眺めていると、エマヌエルも睡魔が襲って来た。

少し安心したのかもしれない・・・ふと思った。


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