その11
11
その時、ボンドたちは、必死で逃げていた。
不運にも、AI「ソピア」が、イレギュラーな地理的干渉を突如決定し機械化兵を派兵した。
その影響で、100名を超える野盗の大集団に追われる事態に陥ったのだ。
幸か不幸か、フェニスもまだ一行と行動を共にしている。
いや、もうフェニスにとっては、この場に居合わせなかった方が、後悔が残るだろう。
「ボンドさん、後ろは気にせず目一杯かっ飛ばしてくれ」
「射撃は俺とエマヌエルさんとで受け持つ」
「マナンは、上下左右を警戒しつつ、いざって時のために、力を温存していてくれ!」
これで逃げ切れなきゃ、どうする?
フェニスは自問する。
・・・いや、答えは出ている筈だ。
だが、そうならないよう全力を尽くすしかない。
ボンドたちは奮闘したが、地の利が悪すぎた。
その地は、あまりにも平坦で見通しが良すぎたのだ。
彼らが身を隠し、潜む場所が少なすぎた。
既に100名近い、屈強な暴徒の集団が、彼らを包囲している。
マナンが如何に全力を出そうとも、相手を出来る人数はせいぜい10人を下回る程度だ。
腕利きのエマヌエルとボンドで、数名・・・それはフェニスとて同じだ。
その間に、残りの数十名に押しつぶされて、身動きが取れなくなるのは目に見えている。
待っているのはボンドとフェニスの死、そしてエマヌエルとマナンの、性奴隷としての運命だ。
- 別れが辛いと思っちまった時点で、こうなることは分かってた -
- 腹を決めるしかない -
「みんな・・・俺の後ろに移動してくれ」
「俺に切り札が、ある」
フェニスが静かに3人に伝える。
「?」
「フェニス、何言ってるの?」
「どういうことだい?」
三人が三様の反応で、疑問を呈するが、フェニスは答えない。
「あーあ、こんなみっともない姿、みんなに見せたくなかったな」
フェニスは、そう呟くと、ベルトを外し、ズボンを下げた。
「ぎゃーははっは、アイツ恐怖で、頭がおかしくなりやがった!」
「裸踊りでもして、命乞いでもするつもりなんだろ?」
「あいつの目の前で、女どもを犯してやろうぜ!」
野盗どもが嬌声を上げる。
「・・・言ってろ」
フェニスは、下半身を露出した、その不格好さとは似ても似つかない、低く凄みのある声で、野盗たちを恫喝した。
一瞬、野盗たちが沈黙する。
「なにこれ!!?・・・・こんな力はじめて感じる」
マナンはその力に圧倒される。
「・・・これは!! マナンと同じ、いやそれとは、比べものにならない程の」
ボンドが驚いたように呟く。
「フェニス・・・貴方は一体」
エマヌエルそう言いかけて息を呑む・・・思うところがあったようだ。
「テメェら・・・知ったからには、ここで全員死んでもらう」
「露神刺」
そう呟くと、フェニスは虚空を鋭く突いた。
すると、周囲を取り囲む野盗全員のみぞおちに、深い穴が開き、例外なく全員が口から血を吹き出して、絶命した。
「・・・こ、このバケモノ、聞いた事があるぜ」
「レビドの悪・・・魔」
そう言って野盗の頭目も絶命した。
「ちっ、テメェらが余計な事をしなけりゃ、もう少しだけ楽しく過ごせたのに」
衣服を整えながら、フェニスは野盗たちの死体に悪態をつく。
そして振り向いて、エマヌエルたちに、寂しそうな笑みを浮かべた。
「ごめん、みんな・・・騙してて」
「ごめん、俺、楽しかったんだ」
「でも、こんな姿を見られたら、嫌になるよな」
「・・・みっともねぇ」
「変態の上に、人外の人殺しとくらぁ・・・」
「だから、お別れだ」
「二度と会う事はない」
「じゃ・・・」
フェニスがそう言いかけた瞬間
「私、言ったよね?」
「『私は、如何なる事があっても、君を軽蔑できる自信が無い!』って」
「それが嘘だと思うの?」
「・・・バカにしないで!!」
「ふざけるな・・・そんな思いまでして、私たちを助けておいて」
「ふざけるな・・・なに、そんな事くらいで自己嫌悪してるの?」
「もう一度言うわ!」
「私は、如何なる事があっても、君を軽蔑できる自信が無い!」
そう叫んだエマヌエルの目から、涙が伝った。
ボンドもマナンも、その目が全てを、同様に語っている。
「・・・え?」
「エマヌエル・・・それにみんな、一体何を言って?」
フェニスは、予想すらできない、その言葉に、却って冷静さを取り戻す。
「・・・うん、これって・・・前後を考えれば」
「かなりシュールなシチュエーションだよな?」
「・・・それなのに、なんでエマヌエルは泣いてるんだ???」
一瞬、恥ずかしさのあまり、フェニスはフリーズし、ほどなく冷静さを取り戻した。
「ありがとう」
「俺は、『こんな』だから、もう一緒にはいられないけど」
「もし、みんなに何かあったら・・・必ず駆けつけるよ」
フェニスはそう言うと、手刀で、そっと空を切った。
そして、エマヌエル、ボンド、マナンの順に、ふっと眠るように意識を失った。
そして、フェニスは3人を大切そうに抱え、そっと横たえた。
フェニスは、エマヌエルの頬をそっと撫で、未練を断ち切るように踵を返した。
何故だ?
何故、俺は泣いているんだ?
みっともないからか?
いや、違う・・・寂しいんだ、俺は。




