宵待月の風鈴、風の月待宵
春から多忙と精神的不調が重なってずっと更新が途絶えていましたが、そろそろ活動を再開しようと思います。
ひとまずはなろラジさんのお題で思いついた小文を形に。
故郷の小さな神社では満月の前の晩に小規模ながら月例祭を行っていた。なんでも満月はその瞬間から欠け始める、陰の時期の始まりであり、宵待月の夜こそ最も陽の気が高まるのだとか。
夕暮れ時に陽の気も何もあった物ではないと中学生の頃の自分は思っていたが、何しろ辺鄙で小さなコミュニティなので嫌々ながらに毎月祭りの手伝いに駆り出されていた。
だが上京してはや数十年、雑貨屋で買った安物の風鈴のちりんちりんと言う音色を肴に夕食前の缶ビールをすすっていると、奇妙で非合理だと感じていた風習の精神がすとんと胸に落ちる気がする。
太陽が完全に水平線の向こうに隠れるほんの少し前に、反対側で昇り始める銀影。それが僅かに歪んでいたとしてもこの日は双方向の空から光が投げかけられるのだ。それを誰かがひと月でもっとも祝福さるべき一瞬と感じたのだろう。
夕暮れのぬるい風がもう一度だけ陶磁器を奏でるとしばらく沈黙した。今日の酒宴はここまでという事だろう。缶に半分残ったアルコールを双光におどけて掲げてから、網戸をかたかたと揺らして冷房の効いた室内へと帰還した。
読んでくださってありがとうございました。
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