第6話 直感
「これはマヤ文字だ」
わたしの専門は世界各地の巨石文明研究だ。エジプトのピラミッド、イギリスのストーンヘンジ、イースター島のモアイ、トルコのギョベックリ・テペ遺跡、そして中米のマヤ文明などが巨石を使った遺物として世間に知られている。
日本にも巨石文化は存在する。各地の神社で磐座としてまつられる巨石の多くは自然石だが、奈良県明日香村の「酒船石」や「石舞台」など巨石、巨岩を利用した人工物も各地に存在する。
わたしは地理的に隔絶した各地の巨石文化に共通する技術や思想を探求し、各文明の間に交流が存在したのではないかという仮説を検証しようとしていた。
その研究もいまや無に帰したのだが――。
「磐船神社の神域にマヤの遺物が存在したとなれば、この2つの文明が接触していたことになる」
わたしはめまいがするほどの衝撃を受けた。
それにしても、なぜこの場所にマヤの石碑が残され、そこには何と書かれているのか? わたしは一刻も早く東京に戻り、マヤ文字の解読に取りかかりたかった。脳を焼かれるような焦燥に苛まれる。
よろめく足で洞窟の入り口まで戻ると、外光で真っ白に光って見える入り口のアーチが徐々に目に馴染んできた。
焦点を結んだわたしの目に映ったのは、正面にそびえる磐船だった。
洞窟は斜面から磐船を正面に見る位置に穿たれている。これは偶然ではない。
洞窟が地中に伸びる方向の延長線上に、磐船の姿がある。まるで磐船を拝むためにこの洞窟が掘られたように私には感じられた。
わたしは木の枝を集めて洞窟の入り口をできる限りふさいだ。考古学者として現状変更は禁忌であったが、他の人間に発見されたくないという欲望に勝てなかった。
わたしにはもう後がない。普通のルートで研究発表する機会が与えられるとは思えなかった。
この発見を報告すれば、この場所は文科省の指揮の下、地元の大学か考古学研究所の管理下に置かれるだろう。
わたしに調査継続の機会が与えられることなどあり得ない。わたしは調査チームに参加することを許されず、単独で活動することを余儀なくされるだろう。
いくらわたしが努力しようとも、人材と予算に恵まれた研究機関の能力に勝てるはずもない。洞窟に近づくことも許されないだろう。
私には競争の機会さえないのだ。
(今なら、この場所を知るのはわたしだけだ)
わたしは地図アプリで洞窟の場所を記録するとともに、周辺の様子を撮影した。
疲れが消し飛んだ体で滑りやすい斜面を登り切り、滑落する前に立っていた場所まで戻った。
林道からの降り口には自分だけがわかる目印を、立木の肌に刻んだ。




