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岩船山奇譚  作者: 藍染 迅


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第5話 石板

 洞窟の入り口には昼の光が差し込んでおり、5メートル程は内部が見通せた。高さ3メートルのアーチ状にまっすぐ穴が続いている。壁も床もきれいな平面に加工されており、人工物であることは疑う余地がなかった。


 誘われるように、わたしは洞窟に踏み入った。


 本来、未探索の洞窟とは危険な場所だ。当然崩落の可能性を考えなければならないし、すでに崩れていて進路がふさがれている可能性もある。

 さらには内部にガスが充満していて、窒息やガス中毒を起こす危険があるし、場合によっては可燃性のガスが爆発するかもしれない。


 したがって、洞窟調査には入念な準備が必要であり、普段着で気軽に踏み込むような場所ではなかった。

 普段の私なら、それくらいの常識は当然備えている。


 しかし、その時のわたしには、洞窟の危険性を考える余裕などなかった。

 それ以前に論文拒絶の知らせを受けて、わたしの頭は正常な判断を下せる状態になかったのだろう。


 奥に進むにつれて足元が暗くなり始めたので、スマホの照明機能で前方を照らす。洞窟の奥に行っても床、壁、天井まで石材が隙間なく組み合わされていた。これほど緻密な石材建築技術をわたしは国内で目にした記憶がない。

 

 表の湿気が嘘のように乾いた洞窟内部を進むと、最深部に古い石板が直立していた。


「モノリス」


 その言葉がわたしの脳裏に浮かぶ。

 石板があったのは通路よりもやや広い、3メートル四方の空間だった。見回してみても、石板の他には何もない。


 わたしは震える手で石板を薄く覆う土を払いのけた。スマホの光の中を、雲母の混ざった土埃がキラキラと舞う。

 無防備に埃を吸い込んでしまい、わたしはむせ返った。ごほんごほんと咳する声が洞窟内にこだまするのが、嘘のように聞こえる。

 

 わたしはスマホをカメラモードにして石板を撮影した。前後左右から角度を変えて何十枚も写真を撮った。

 手が震えて何枚も撮り直すことになったが、わたしは石板のすべてをスマホに記録した。


 石板にはここ(・・)に存在するはずのない文字がびっしりと刻まれていた。

 もちろん日本語ではない。

 漢字でもない。この文字が、なぜここに――。


 そこに刻まれた不思議な文字にわたしは見覚えがあった。

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