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岩船山奇譚  作者: 藍染 迅


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第4話 洞窟

 湿った草が足にまとわりつく。すぐにズボンのすそが濡れて重くなった。雨水がしみ込んだ革靴が嫌な音を立てる。

 

 この周辺には前夜、集中豪雨が降っていた。


 短時間に集中した雨を受けて地面が緩んでいた。土がむき出しになった部分は、ぬるりと滑って足を取ろうとする。

 遊歩道はおろか獣道からも外れて、わたしは草に覆われた斜面に足を踏み入れていた。


 バラバラ……。

 

 土くれが転がるような音がしたかと思うと、突然足元の地面が動いた。斜面の表層が地滑りを起こしたのだ。

 わたしは横倒しになったまま巻き込まれ、20メートル程滑落した。


 天地が入れ替わるめまいを覚えたかと思うと、突然地滑りが止まった。

 幸いなことにに怪我ひとつなく助かったわたしは、元の場所に戻ろうと立ち上がる。


 体は泥だらけだが、気にしてはいられない。このままここにいたら、いつまた地滑りが発生するかわからなかった。


 慎重に斜面を登っていくと、妙なものがわたしの目に入ってきた。

 斜面にぽっかりと口を開けた洞窟であった。


(これは……地滑りで現れた穴じゃないか?)


 洞窟の入り口は一枚岩で塞がれていたらしいのだが、その岩が地滑りでどかされたらしい。入り口の2メートルほど下方に洞窟の開口部と大きさが一致する岩があった。


(これは人工物か?)


 わたしは斜面を登ることを忘れて洞窟に近づいた。

 考古学者としての好奇心がわたしを動かしていた。


 洞窟の開口部を支える石組みは規則的な断面を持つ岩石のブロックを組み合わせたものだった。その表面は加工されたものに違いなかった。

 石と石の継ぎ目は1ミリの隙間もない。石工としての高い技術水準をうかがわせる仕上がりだった。


 天岩戸(あまのいわと)という言葉がわたしの脳内に浮かんでいた。

 天照大神(あまてらすおおみかみ)岩戸隠(いわとがくれ)は日本の神話の中でも、最も有名なエピソードのひとつだろう。


 磐船神社の山域に天岩戸と称される場所は他にある。数枚の自然石が扉のように見える奇岩の景勝だが、神話を信じるならこちらの洞窟の方がふさわしい場所だった。


(この奥には一体何があるのだろう?)


 腹の底から湧き上がる疑問を、わたしは抑え込むことができなかった。

 未盗掘の古墳という考えが頭に浮かんだが、急斜面の途中という場所を考えるとそれはない。


 同じ理由で住居跡という可能性も低いだろう。

 何か宗教的な祭祀に用いられた場所かもしれないと、可能性をもてあそびながら私は洞窟の入り口をくぐった。

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