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第12話 昇天
巨石が光を発し、細かく振動した。わたしの体も同じ光に包まれ、地上を離れてゆっくりと上昇する。
「先生、お別れです」
最早わたしにとって学会などどうでも良い。事実こそがわたしの正しさを証明する。
わたしを縛るものは何もなかった。
わたしは岩船の頂点に立ち、「上昇」を命じた。
「おい! どこへ……どこへ行くつもりだ?」
慌てて岩船から遠ざかりながら、武井教授が叫んだ。
ぶちぶち、ぼこぼこと音を立てて岩船は地面から浮上し、高い空へと上昇していく。
「高天原へ――」
わたしは岩船に行先を命じた。
目指すは中央アメリカ、ユカタン半島。
わたしを縛るものは何もない。国境も高山も、土地を隔てる大海さえもわたしの前では無意味だ。
「我が名は、ニギハヤヒ」
わたしが名乗りを上げると、岩船は超音速に加速した――。(了)