第11話 言霊
「取り出せる力が大きすぎて、中途半端なサイズのものに働かせると消し飛んでしまうんです」
たとえるならロケットエンジンを自転車に取りつけるようなものだ。馬力が大きすぎて自転車が吹っ飛んでしまう。
「バランスを取るために、マヤ人はわざわざ巨石を動かしたんです」
古代マヤ人は質量解放の方法を知っていた。
彼らは巨石を浮かせ、それを岩船として動かしていたのだ。
「そんな……。う、それならマヤ王国はどうなったんだ? なぜゼロポイント・エネルギーを子孫に伝えなかった?」
「西欧人に征服されたのは『神の子孫』ではありません。彼らは言わば『奴隷の末裔』でした。支配階級はゼロポイント・エネルギーの秘法と共に国を捨ててしまったんです」
マヤは神が住まう国、すなわち高天原だった。
そして、記紀に登場する神々はマヤの王族たちだった。
「中でも岩船浮遊術に最も優れていたのが、ニギハヤヒでした」
ニギハヤヒという名は「豊か、豊穣」を意味する「ニギ」と、「速い」を意味する「ハヤヒ」からなる。
要するに「とても速い」ということだ。
誰よりも速く岩船を飛ばせる王族。それがニギハヤヒであった。だからこそ、他の神に先んじて太平洋を横断することができたのだろう。
ニギハヤヒの別名「|天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊《アマテルクニテルヒコアマノホノアカリクシタマニギハヤヒノミコト》」はゼロポイント・エネルギーの強大な力を示唆するものだ。
「天照国照彦」とは、「空や国土を照らす太陽の如き男子」ということだろう。これはニギハヤヒ自身が太陽神信仰を持っていたことを示唆している。太陽神信仰は古代エジプトにも共通する文化だ。
「天火明櫛玉」とは、「空に火をともすような不思議な玉」のこと。おそらくゼロポイント・エネルギーを利用した火炎弾のことだろう。乗用ではなく武器として飛ばすなら、砲丸のような大きさでも構わない。
つまりはニギハヤヒとは、「太陽を崇拝し、途方もない火力を行使する、とても速い男」のことだ。
「そんな馬鹿な」
「わたしは岩船浮遊術を解明しましたよ」
これ以上の議論に意味はない。論より証拠だ。
わたしは磐座に歩み寄り、右手で岩肌に触れた。
古代マヤ語の成句、岩船を起動する言霊を発声する。
「〇△※◇――」