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コンパクトで軽い車体は慣れて来ると自分の体の一部の様に扱うことが出来ると言われている。
と言うか、今の俺は軽トラそのものなので、その挙動が手に取る様に分かる。
タイトコーナーを四輪ドリフトで抜けるのもお手の物だ。
荷物は積まれているが、人一人で持てる程度の木箱と、ラクティの食料程度なので、それほど重くなかったのもある。
まあ、未舗装の滑り易い路面なので、絶対的なスピードは高くはなかった。
そんなに自慢できる走りでもなかったと思う。
「やった!あいつの魔動車、道の外に落ちたぞ!」
後ろを見たラクティが叫ぶ。
追って来ていたマイトハルトの車両がバックミラーから消えている。
「ちょっと止めて!」
ラクティがそう言ったので、俺は山道の途中で停車する。
止まると、彼女は軽トラのドアを開け、マイトハルトの車が落ちた辺りに走って行く。
「おいおい」
俺は彼女を追い、バックで来た道を戻る。
そこは崖と言う程切り断ってもいなかったので、マイトハルトの車は道路より一段低い草むらの中に落ちていた。
落ちた衝撃であちこち壊れてはいるが、速い速度で立ち木にぶつかった訳でもない様なので、乗車していた連中はみんな生きている。
幸か不幸か、俺の様に異世界転生もしていない。
車内であちこちぶつけたのか、頭やら肩やらを押さえて呻きながら、車から這い出て来ているところだった。
そこに短剣を抜いたラクティが襲い掛かる。
慌てて武器を取り出そうとしたゴロツキ達を彼女は蹴飛ばしていく。
短剣を手にしてはいるが、それで相手を傷付けるつもりは無いらしく、武器を遠くに弾き飛ばすだけで済ませている。
最後に、一番派手な服を着たマイトハルトの喉元に短剣を突き付けた。
事故った直後でみんなふらふらになっていたとは言え、あっと言う間に四人を無力化するくらいには、実は彼女は強かった。
「ま、待ってくれ!俺は親父に言われただけで、別に君に恨みが有る訳じゃない!」
マイトハルトは両手を上げ、情けない声でそう言った。
「か、金なら出すから、命だけは助けてくれ!」
無言で睨むラクティに、更に彼はそう言う。
「お前の金は要らない。金はちゃんと仕事をして稼ぐものだ」
そう言ったラクティはチラリと壊れた魔動車を見る。
車軸が折れている様で、自力ではもう走れないだろう。
「もう追って来れなさそうだから、いいや」
そう言って短剣を納めて、こちらに戻って来る。
後から馬に乗った仲間が追い付いて来るだろうから、この四人が遭難する事も無いだろう。
草を食べさせる為に休憩する必要がある馬では、俺達に追い付くのは難しいと思う。
ラクティは軽トラのドアを開けて俺に乗り込んで来た。
そのまま走り出す。
「もしかして、連中の誰かが死んだり大怪我したりしていないか確かめる為に戻ったのか?」
俺がそう聞く。
「さあ?」
彼女は惚けた声でそう言った。
その後、俺達は特に障害も無く山道を走り抜け、大きな街道に出て、王都まで来た。
王都で待っていた領主とか言う人に、荷物を引き渡し、運送料金を受け取る。
後は運び屋ギルドに報告して、仕事は完了だった。
「交換した肉、あんまり美味くないな・・・」
一口大に切り取った燻製肉を食べたラクティがそう言う。
運び屋ギルドで交換した肉は、同じく事故で死んだラバの肉だったが、少し古い物の様だった。
香辛料を振り掛けたが、余り臭みは誤魔化せなかったみたいだ。
口直しにラクティは王都の八百屋で買ったりんごみたいな果物を齧る。
俺達は王都を出て、次の目的地に向かって街道をトコトコと走っている。
王都のギルドで次の仕事を受けたのだ。
今俺の荷台には王都産の何かの御土産物らしき工芸品が積まれている。
地方の金持ちとかが買うそうだ。
「こんなもの欲しがるとか、金持ちの趣味は分かんねえな」
荷台に載った複数の珍妙な像を見て俺はそう言う。
「ま、仕事があるだけ良いじゃんか」
果物の方は美味かったらしく、彼女はそれを嬉しそうにシャクシャク齧りながら言う。
運転しながら食事をするのは余り行儀が良いとは言えないと思うが、俺は言わない。
「こうやって君は今までも運び屋の仕事をしてきたのか?」
俺は聞く。
「そうだよ・・・、まあ、運び屋始めてまだ半年くらいだけどね」
彼女はそう答えた。
「なんだ、この仕事に誇りを持ってるみたいに見えたけど、まだそれくらいしかやってなかったのか?」
「どんな仕事でも真面目にやるもんだぞ、それでご飯を食べるんだからな」
当たり前だと言う顔で、彼女は言う。
俺は反省した。
そして、やはりこの娘は見た目よりもしっかりとした大人だと思う。
「これからも、この仕事を続けていくつもりなのか?何か大きな目標とかは・・・」
俺は更にそう聞く。
生活の為に仕事をするのは当たり前のことだが、若い彼女にならもっと夢みたいなものが有っても良いと思う。
「ご飯が食べれれば、それで満足だけど。そうだな・・・」
そこで、彼女は初めてどこか遠くを見るような目になった。
「出来るならこの仕事をしながら、この大陸の全部の場所に行って、色んな風景を見てみたい」
ラクティはそう言う。
「・・・いいな、それ。俺で良かったら、乗せて行ってやるぜ」
俺はそう言う。
「そう言うケイジは何かやりたいことは無いの?例えば元の世界に帰りたいとか?」
ラクティにそう聞かれて俺は考える。
元の世界での俺はどういう事になっているのだろう?
死んでいるのか?行方不明になっているのか?
確かめようも無い。
もし戻れたとして、その時俺は人間なのか?それとも軽トラのままなのか?
分からない事だらけだ。
「そうだな、特に戻りたいって気持ちはないかな。こっちの世界の方が楽しそうな気もする」
俺はそう言った。
「それよりも、人間の姿に戻りたいな」
軽トラの身体は案外不満も無く、ある意味便利だったりもするが、何と言うかそんな気持ちになった。
「そうなのか?うーん、石から人間が生まれた昔話とか有った気もするけど、生き物じゃないものを人間にする魔法とか聞いたことないな・・・」
俺の言葉に、ラクティは真剣に考えてくれる。
「ああ、別にすぐにじゃなくても良いんだ。軽トラじゃなくなったら君を乗せて走ることも出来ないし」
俺はそう言う。
「そうか、それなら当分二人で仕事しながら大陸をあちこち走り回って、ケイジを人間にする方法を探すって事にしよう!」
ラクティがそう言ってくれる。
「そうだな」
俺もそう答えた。
舗装もされていない長閑な街道を獣人の少女を乗せて、俺はゆっくりと走って行く。
今、積んでいる荷物を運ぶ直近の目的地はある。
その先の遠い未来の目的地は無い。
そんな旅も悪くはないと俺は思った。
ここまで読んで頂き有難うございます。
ここで一話終了です。
あと三話ほどネタは有ります。
続きは別作『春日部てんこの異世界器用貧乏』がひと段落してからにするつもりです。
しばしお待ちを。