4-10
運び屋ギルドの寮の一室。
タヌキ顔とキツネ顔の獣人娘が二人、備え付けの台所で料理をしている。
レース終了後、俺達は元の街に戻って来たのだが、未だに宿屋はどこも満室だったので、ラクティは友人のエリカの部屋に泊めて貰う事にしたのだ。
食材はラクティが買って来た。
「・・・それで、どうやらバーンズ男爵は謹慎に成ったみたいだよ」
表彰式後に聞きかじった事をラクティが話す。
「へえ、そうなんだ。あれね、この国の貴族も一枚岩じゃないらしいからね。ベルディーナ王国の魔動車技術を見て自国に取り入れられればそれで良いって一派と、それとは別に他国の参加者に負けるのはプライドが許さないって連中も居るみたい。男爵は後者だったって事か」
「それにしてもやり過ぎ。あの奇天烈な魔動車もだけど、コース脇にあんな大掛かりな仕掛けを作るなんて。馬鹿みたいに大きな石も有ったんだから」
「多分、その捕まえた男以外にも協力者はいるでしょうね。もしかしたら、バーンズ男爵以外の貴族も絡んでるのかな。だとしたら、最後は有耶無耶になって、お終いかもね」
「まあ、リタも抗議するとは言ってたけど、ベルディーナ王国軍筆頭魔法師としてじゃなくて彼女個人の名前でだったから、大事にするつもりじゃないんだろうけど」
二人は喋りながら料理を作って、出来上がった物を台所からテーブルに持ってくる。
「それ!フォンダリル辺境伯の末娘で、ベルディーナ王国軍の最終兵器とか呼ばれてるあのエルデリータ・フォンダリルと友達に成ったって本当?」
テーブルに着いたエリカが同じくテーブルに着いたラクティに聞く。
「ほんと。色々あってな。主にこれのお陰だけど」
そう言って、ラクティは俺のぬいぐるみボディを見せる。
「やあ!」
俺は片手を上げて挨拶する。
実は少し前に諸々の事情と共に俺の正体もエリカに話している。
「そこも信じられない話だけどね。最初に見た時には、一人で仕事してて孤独に耐えられなくなってぬいぐるみをお友達にしたのかと思ったけど、これが異世界からやって来た転生者だとか・・・」
「これは外部端末みたいなもんで、本体は軽トラ・・・ギルドの駐車場に駐めてる魔動車の方だけどな」
「?」
俺は追加で説明をしたが、エリカは良く分かっていない感じで首を傾げる。
「ともかく、俺の事は他の人には秘密にして貰えると嬉しい」
俺はそう言う。
「私がリタと友達に成った事もね。貴族とのコネって人から一目置かれる事も有るけど、それ以上に面倒そうじゃない?」
「まあ、そうね。でも、それならなんで私に打ち明けたの?黙っていれば良いじゃない?」
エリカがラクティに聞く。
「友達だから」
ラクティは簡潔に答えた。
「ラクティ」
エリカが潤んだ瞳でラクティを見る。
テーブルを挿んで、二人が見つめ合う。
これは獣人娘同士のユリ展開か?とか、俺は考えた。
俺は決してケモナーではないが、少しだけ気になる。
「冷めないうちに食べようか」
そう言った雰囲気は一瞬で消し去って、ラクティが作った料理を指す。
「そうね。これが異世界の料理?」
エリカも、あっさりとそう返す。
俺は肩透かしを食らった感じになった。
いや、別にがっかりしてなんかいない。
「そ、そうだな、名付けてドラゴン親子丼かな?」
俺はそう答えた。
ラクティに頼まれて、俺がレシピを考えた。
前にラクティが食べた家畜竜の卵を使ったオムレツを見て思い付いた料理だ。
ドラゴンの卵と肉を使っている。
一口大に切った竜のもも肉を甘辛い汁で煮て、同じく溶き卵にした竜の卵でとじている。
難しかったのは味付けだった。
俺は味見が出来ないので、この辺で手に入る調味料の中から二人の意見を聞き、醤油やみりんに近いと思われる物を使っている。
それと熱を加えると甘みが出るタマネギの様な野菜を大量に一緒に煮たので、多分美味いだろう。
一応、この辺では麦の他にコメも採れるそうなので、炊いたコメの上に卵でとじた肉をのせる。
「うん、美味しい!」
「この卵の使い方、良いわね」
一口食べて、ラクティとエリカが感想を言う。
「本当は鶏の卵と肉を使うんだけどな。ドラゴンの方が安いって言うからアレンジしてみたが、上手く行った様で何よりだ」
俺がそう言う。
「ケイジに教えてもらった料理はどれも美味しいんだ」
ラクティがご飯と一緒にふわふわになった卵を掻き込みながらそう言う。
「そうか?教えても試さなかったモノもあっただろう。イカ塩辛とか・・・」
「ゲテモノはちょっとねえ」
虫を食べる奴が何を言う。
二人はおしゃべりをしながら、食事を続けた。
「そうそう、あんたが連れて来たマーク君、下働きの仕事、良くやってくれてるわ」
エリカが、食後のお茶を淹れながらそう言う。
「そうか、良かった」
ラクティが小さく答える。
「孤児院の方は今もいっぱいでね。あれくらいの歳の子は結局、働きに出されるから最初からウチに連れて来たのは良かったね」
淹れた紅茶をラクティの前に出して、そう言う。
「それにあんた、レースの賞金の半分、ギルドに寄付したってね?」
「ああ、四位の賞金の、それも半分だけな」
ラクティが照れ隠しなのか、そっけなく答える。
そう言うところが彼女らしいと俺は思った。
俺達は今それ程お金に困っていない。
賞金の全額を寄付することも出来るが、そうはしない。
残りの半額は自分で使う。
普通に贅沢品を買ったり、無駄使いもするだろう。
「ラクティのそう言うところが好きだな」
エリカも俺と同じ意見の様だ。
「寝る前にお茶を飲むと寝れなくなるな」
飲んでしまってから、ラクティがそう言う。
「良いじゃない。久しぶりに夜更かしてお喋りしようよ。そっちのケイジもね」
エリカが、俺のぬいぐるみボディを持ち上げる。
参ったな、おっさんだから、若い女の子の話に挟まるのは苦手なんだが・・・
ここまで読んで頂き有難うございます。
『軽トラ転生』はここで一旦一区切りです。
次は『春日部てんこ』の方に戻ります。
 




