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俺の名は虎峰啓治。
この世界に軽トラの姿で転生して来たアラフォーのおっさんだ。
おっさんではあるが、ラノベや漫画、アニメ好きの所謂オタクだったので、異世界転生モノにも理解はある。
だから、モンスター等の人外の生物に転生するパターンも知っている。
生物以外、剣等の無機物に転生するのも数は少ないが見たことは有る。
だが、軽トラに転生するパターンは無かった。
小説投稿サイトの片隅に数件くらいは有るのだろうか?
軽トラとはつまり軽自動車規格のトラック、貨物車の事である。
普通車に比べ小さいとは言え、車両である限り、普通の建物内に入ることは出来ない。
今までは相棒のラクティが運び屋ギルドだったり宿屋だったりの建物に入る時は、俺は外で待つ事になっていた。
そう、今までは。
街の食堂に入ったラクティはカウンターに注文を出した後、一つのテーブルに着き、俺をそのテーブルの上に置く。
今回が最初ではないが、俺は物珍し気にこの世界の建物の内装を見る。
思わず声が出そうになるが俺は我慢した。
軽トラもそうだが、ぬいぐるみが声を出すのはマズいだろう。
そう、今の俺はぬいぐるみの姿になっていた。
とは言え、俺は軽トラからぬいぐるみに姿を変えたわけではない。
軽トラの方は店の前に駐車してある。
少し時間は遡るが、ベルディーナ王国軍とワリン王国軍の戦闘の後、俺達はベルディーナ王国の魔法研究所まで行った。
そこで、筆頭魔法師のエルデリータ・フォンダリルの手によって俺は隅々まで調べられた。
そしてエルデリータことリタは軽トラの装備品のラジオを取り外し、それに治癒魔法無効の呪いを掛けた。
それにより、俺本体に治癒魔法を掛けてもラジオが戻る事は無くなった。
そして、ラジオユニットとぬいぐるみを用意して合成の魔法を掛ける。
それにより出来たのがこのぬいぐるみボディだ。
ぬいぐるみは二頭身のタヌキのぬいぐるみだ。
何でも良かったのだが、リタが自身のぬいぐるみコレクションの中からそれを選んで来た。
ラクティがタヌキの獣人なのでそれにちなんだのだろう。
どういう理屈なのか、分離したラジオユニットにも俺の意識が繋がっている様で、ぬいぐるみの目が見ている物も俺は見れるし、音も聞こえる。
スピーカーを通して喋ることも出来るようになった。
あくまで俺の本体は軽トラの方だが、ぬいぐるみを通して、今まで行けなかった場所にも行ける様になった。
喋れるが、自分では動けないので移動にはラクティの手が要るが、それでも、大分便利になった。
以前、巨大猪のモンスターとぶつかって大破した時はひどい痛みを覚えたが、手順通りにねじを回してラジオを取り外した時はまったく痛くはなかった。
自分の車体だが、分からない事ばかりだ。
「取り敢えずはぬいぐるみだが、魔石で動く精巧な人型ゴーレムに融合できれば見た目だけは人として動くことも出来る様になるだろう」
ぬいぐるみボディを手に入れた俺に向かって、リタはそう言った。
「でもそれって、ぬいぐるみと同じで物を食べる事も出来ないんだろう?」
俺はそう聞いた。
「そうだな、それにゴーレムも余程精巧に作らないと、何処かに違和感と言うか不気味さが出てしまう。それ程精巧なゴーレムを作れる者は俺は知らないしな」
「それじゃ、ぬいぐるみの方がまだマシかな。取り敢えずはこれで十分だ。ありがとう」
俺はそう礼を言った。
その後、俺達はリタの所をあとにして、また運び屋の仕事を再開した。
そんな訳で、今も仕事の途中だ。
ラクティと向かいに座った少年の前に料理が運ばれてくる。
少年の種族は普通人で、歳は十歳くらい。
痩せていてみすぼらしい格好をしている。
「・・・あの、有難うございます」
料理を前にして、彼はラクティに対して礼を言った。
料理代はラクティが全て払っている。
「気にするな。これも運賃の内だ」
彼女はぶっきら棒に答える。
今回の仕事はこの少年(名前はマークと言ったか?)をある街まで連れていく事だ。
先日、別の仕事で寄った村の村長から頼まれた仕事だった。
なんでも、彼の母親が一月ほど前に流行り病でなくなってしまい、少し遠い町に出稼ぎに出ている父親の所まで届けて欲しいそうだ。
依頼額は少なかった。
道中の宿代、食事代で赤字になるくらいだった。
村の経済状態が良くないのも分かるが、とは言え、あの村長の情に訴えて値切ってやろうと言う態度が丸見えだったのは、今思い出しても気分が悪い。
無駄飯食いの子供を放り出して、清々している様にも見えた。
まあ、村長はもうどうでも良い。
少しおどおどとした態度だが、ちゃんと礼を言ってから食事を始める少年には好感が持てる。
正体を明かすと面倒な事になるので、彼に対しても俺はぬいぐるみの振りをしているが、それでも心の中で少年を応援したい気になる。
次の日、俺達は目的の街に着いた。
ここは鉱山の街だそうだ。
石炭と、少量ではあるが魔石も採れるらしい。
そのせいで景気が良いのか、馬車の他にも魔動車も結構な頻度で走っている。
人種は、やっぱりと言うかドワーフが多かった。
村長から聞いた鉱夫の宿舎に行くとマーク少年の父親が出て来た。
「マ、マークか?どうしたんだ急に!?」
父親、普通人の中年の男が驚く。
一瞬、息子の顔が分からなかった事から、大分長いこと会っていないのだろうと推測出来た。
ラクティが、村長から聞いてきた事情を説明する。
「そ、そうだったのか、ええと、分かった。息子は受け取った。もう帰って良いぞ」
父親は少年の手を掴み、そう言う。
今初めて自分の妻の死を知ったはずなのに、悲しむ素振りも無い。
どうやら、これはギルティだと俺は判断した。
ラクティも同じ結論に達した様で、マーク少年と同じ目線になる様にしゃがみ込む。
「これは今回の仕事のサービスだ。じゃあ、元気でな」
そう言って、タヌキのぬいぐるみを差し出す。
「え?でも、いつも持ち歩いてて、大事にしてた物じゃないんですか?」
「良いから、お守りだとでも思っておけ」
そう言って、無理矢理押し付ける。
ラクティと別れて、男はマーク少年を宿舎の二階の自分の部屋に連れて来た。
「そうか、あの女、死にやがったか。ったく、面倒なガキ押し付けやがって!」
扉を閉めるなり、いきなり悪態を吐く。
「と、父さん?」
マーク少年が狼狽える。
「まあいい、お前今幾つだ?」
「じゅ、十歳です・・・」
「まだ、そんな年だったか。確か炭鉱の年齢制限は十三からだったか?よし、お前は明日から十三って事にして炭鉱で働け」
「そ、そんな!?」
「うるせえ!自分の食い扶持は自分で稼ぐんだよ!」
男が息子に詰め寄る。
完全にギルティだ。
年齢を偽らせて強制労働させるつもりらしい。
それ以前に、今日は平日のはずでまだ日も高いのに、この男は何故宿舎に居る?
俺達は、居なかったら夜になるまで待つつもりで来ていた。
部屋には空の酒瓶が幾つか転がっている。
俺の見る限りじゃ、この男まともに働いていないだろう。
男は少年の腕に抱かれたタヌキのぬいぐるみに目を付けた。
「男のガキにぬいぐるみとか、あの獣人女、馬鹿か?だが、売ったらそこそこ高そうだな」
そう言って、俺の分身であるぬいぐるみを取り上げる。
そこそこ高そうではない。
辺境伯令嬢のコレクションだったボディだぞ、汚い手で触らないで貰いたいな。
俺がそう思った時、大きな音がして、いきなり部屋の窓が開いた。
「どうも、こんにちは!人攫いです!」
二階の窓辺に立った人影が、場違いな自己紹介をする。
「なっ!お前はさっきの運び屋の女?!」
その姿を見た男が、叫ぶ。
「人攫いです!」
ラクティはそう繰り返した。
一応、布を巻いて顔を隠してはいるが、背格好も声もさっき会った時のままである。
あれから十分も経ってないので、余程の鳥頭相手でない限り、誤魔化すのは無理がある。
「何しに来やがった!他人の家庭の話に口を出す気か!?」
男は俺のぬいぐるみボディを放り投げ、彼女につかみ掛かる。
急な出来事に驚いているのも有るだろうが、必要以上に激高しているのは自身に後ろめたい事が有るのだろう。
ラクティは逆にその手を取り、男を軽々と投げ飛ばした。
固い床に受け身も取れずに打ち付けられ、男は痛みのあまり、のた打ち回る。
多分、彼女が得意とする身体強化魔法を自身に掛けている。
二階の窓から侵入出来たのも、その魔法のお陰だろう。
それを抜きにしても、中々の技の冴えだった。
「では、人攫いなので、攫って行く!」
そう言ってラクティは、マーク君を片手に抱え、逆の手で床に落ちているぬいぐるみを拾い、二階の窓から飛び降りる。
今の彼女なら、これくらい朝飯前だ。
「家庭の話とか言って、あんた、この子を家族と思ってなかったでしょう?」
飛び降りる寸前、小さい声でラクティがそう言ったのを俺は聞いた。




