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きみは最果ての光  作者: 天水しあ
第十一章『所依』
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第九十一集「問答」

 気づいたら鉄格子を握っていた。静かな空間に神経質な音が響き、「どうしました!?」切迫した声の方を振り返れば、腰に佩いた剣に手をかけながら、璃律がこちらへ足を向けようとしているのが見えた。


「大丈夫、何もない」

 できるだけ平静に答えることで彼を制止すると同時に、自らをも諫める。


 そうだ、すぐ傍で控えている者がいる。そして桃花宮では、今なお彼女も――。


 瑛明は鉄格子から手を放し、天を仰いだ。大きく息を吸い、吐く。

 繰り返すこと、数回。再び中相に向き直ると、


「俺たちがいちにいるとき竹を倒してきたのも、かつて桃花源で続いた若者の失踪事件――外界に出ようとした若者を惨殺したのも、あなたですね?」

 中相はただ無言で、妖しく笑った。


「ついでに言えば、私が崔家の当主になったのも、偶然ではない」

 思いも寄らなかった発言に、瑛明は息を呑んだ。涼やかともいえる笑みを浮かべるその姿に、空恐ろしさを感じて、ぞっとする。 


 瑛明はゆっくりと横を向いた。遥か向こうで燈籠を手にした璃律と王師が、こちらをじっと伺っている。大きく息を吐いてから、一つ頷いてみせた。

 「では」再び中相に相対すと、


「夕暮れの川原で、泣いている子供に声をかけたことは?」


 中相から、すうっと表情が消えた。

「何のことだか分からないな」

 ふいっと横を向き、口元に浮かべた笑みは、先ほどまでの挑発的なものとは違っている。


 小さく息を吐き、中相は再び瑛明に目を向けると、

「おまえがここに来たのは、そんな昔話をするためなのか?」

 「いえ……」今度は、瑛明が目を逸らす番だった。


 突き上げられるようにここまで来た。

 だけど顔を合わせたとたん、あれもこれもと思っていたそのほとんどが綺麗に消えてしまった。

 ただ、まるで竹庵にいた時のように、その答えが欲しかった。

 あの頃はいつも、中相の判断を求めていた。「その通りだ」と言われて喜び、「違う」と言われて自分の不明さを恥じていた。


「これが――あなたのやりたかったことなんですか?」


 今は、「正」、「否」のただ一言じゃなく、あなた自身の言葉――それが何より、今一番欲しい。 


 僅かに目を伏せ、しばし思案する様子を見せていた中相だったが、「どうなんだろうな」そう言って、ふと顔を上げた。


「今となっては、何がしたかったのか良く分からないな……」


 瑛明の背後にあるだろう窓を見上げながら、問いに答える、というより、独り言であるかのように中相は呟いた。


 そうして小さく溜息をつき、

「少し疲れたな……」

 その言葉を裏付けるように、なんだか顔がやつれているように見えた。


 昨夜帰ったばかりで、参内してのちに牢送りでは、無理もないな、瑛明はそう思った。

 「座られますか?」瑛明の言葉に、中相は背後を振り返る。数歩下がったところに、身を横たえられるくらいのとうがある。


 中相は緩く頭を振り、

「いや……、少し、手を貸してくれないか」

 格子の隙間から、中相が手を伸ばしてきた。


「分かりました」

 瑛明は延ばされた両手を載せられるように、自らの手を伸ばした。

 中相の両手がふわりと載せられた、と思った瞬間、その左手が、瑛明の左手をがっと掴んだ。そのまま強引に中に引き込まれ、左肩が鉄格子に当たる。動けない。


 抗う間もなく、中相の右手が、素早く瑛明の首元に差し込まれた。首には、あの匕首ひしゅ


 しまった――そう思った。


 でももう、遅い。

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