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きみは最果ての光  作者: 天水しあ
第十一章『所依』
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第九十集「竟然」

「あの羽を――母さんに使いましたね」

 瑛明えいめいが低く問うと、中相は僅かに目を伏せ、眉を寄せた。


 この反応――やっぱり、そうだったんだ。


鴆毒ちんどくは表面を羽で一撫でした飲み物を口にするだけで、たちまち死に至る猛毒だと言うではないですか』


 璃律りりつの言葉がひっかかって、あの羽を改めて見てみた。そうしたら――根元は濡れていなかったのに、以前見た、あの毒々しい鮮やかさが抜けているように思えた。

 その二つから導き出された結論――既に一度、使われていたのではないか、ということ。


 その一度が思いあたったとき、思い浮かんだ顔があった。


 「そうでないかと」思って自分から尋ねた。

 なのに、それが事実として突き付けられてしまったことに、ただの一声さえ、あげることができない。瑛明が無言で立ち尽くしていると、中相が小さく息を吐いた。


「私ではない。だがまあ――結果的にはそういうことになるんだろう」


 いくら中相でも、部屋に引きこもりがちな俺の部屋に入って羽を持ち出すのは、無理だ。そもそも、存在を知ることさえ無理だったはず。だから、協力者がいるのではと思った。


 だけど、それができるのは、どう考えてもたった一人しかいなかった。俺の部屋に置いておいたあの羽を、俺でもなく、母さんでもなく、持ち出すことができるのは。 

 だけど中相のその言葉――「命じられたから」ではなく、依軒いけんが自主的にやったと、そういうことか?


 幼い頃からずっと一緒で、姉妹のように過ごしていたはずなのに。

 あんなに再会を喜んで、かいがいしく世話を焼いていたのに。

 母さんが亡くなったとき、あんなに泣いていたのに。


 依軒が、やけに誇らしげに中相の功績を語っていたことを思い出す。それは、大爺だんなさまだから、何より、敬愛する母さんの夫だからだと思っていた。


 でも――母さんが姿を消してからも、依軒はずっと、実家に戻らず中相家に居た。

 乳姉妹なんだから、母さんが戻ることを信じて待つのは当然のように思っていたけれど、十余年以上もの間、彼女がどういう立場で、どういう気持ちで中相家にいたのか、全く考えていなかった。


 そういえば、中相が朝議後に俺のところに来たときは、必ず依軒に挨拶をしてから帰っていた――ただ古参の侍女を労っているのだと思っていたけれど。


 依軒が、外界から持ち込まれたあの羽がどういうものなのかを自力で知ることはできなかったはず。彼女にそれを教えられるのは、中相しかいない。


 襲撃者が来た時、何故か部屋に鍵がかかっていて、逃げ出せなかった。

 つまり、二人は――。


 まともに目を合わせられないでいる自分に、中相がじっと目を注いでいるのが、分かる。


 瑛明は、いつしか伏せていた顔を上げる。背後の窓から差し込む光が、中相の顔を照らし出していた。随分と冷めているように感じた。どうでもいい、と。


 そうだ、今はそんなことに動揺している場合じゃない。二人の仲がどうだろうと、昔に何があろうと、すでに起こってしまったことは、もうどうだっていいんだ。


 瑛明はひそかに息を吐き、問うた。

「あの羽の存在を、王上に話しましたね」

 「そうだな」淡々とした答え。


 分かってはいたけれど――腹の底から突き上げてくる感情がある。堪えるように、袖の下でぐっと拳を握った。

 瑛明は気を取り直し、努めて平静を装って、訊く。「一体、どういうお話をされたんですか?」


 中相は、ふっと思い出したように笑った。

「それは彼女に訊くんだな」 

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