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きみは最果ての光  作者: 天水しあ
第八章『足音』
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第五十八集「新年」

 年が明けた。


 宮中が祝賀の華やかな気で満たされているのは、閉め切った室内でも充分に感じられた。


 それでも瑛明は平素と変わらない地味な衣装を着て、普段通りの(とはいえ、特別に用意されているだろう)食事をとり、本を読んだり書を書いたりして、淡々と日々を過ごす。


 頁を捲る音すら響く静かな室内――そこへ突如、廊下を走る複数の足音と、華やかな笑声が飛び込んできた。被せるように「はあ」とこれ見よがしな溜め息は、背後からだ。


「ああうるさい。この部屋に誰が籠っているか分かっているはずなのに――いえ、分かっているからこそ、笑っているんでしょうね」


 また始まったよ。よく飽きないな。


 思いながら瑛明は「とりあえずここまでは読もう」と決めて、読む速度を僅かに上げた。

「賑やかに新年を祝う宮中に、喪にある者が身を置くなんて、何と物知らずなのかと、そういう笑いでしょう。世間は中相様が権力に固執するあまり無理矢理留まらせていると見るに違いありません。中相様のご活躍を妬む者は大勢おりますのに、恰好の攻撃材料を与えているのかと思うと、ああ口惜しい」


 ――頃合いだな。


 延々と怨言を並べていた依軒が、息継ぎをしたところで瑛明は立ち上がった。


「昼寝の時間だから寝る」


 閉じた本を卓上に残し、依軒の反応を見ることなく、すたすたと寝室に向かう。寝室に続く扉に手をかけ――ふと目を流した。

 部屋の片隅にある黒櫃。しっかり鍵がかけられたそれはもう何日も閉じられたままだ。引きこもるしかない以上、依軒がべったりと張りついているだろうことは分かり切っているうえ、さまざまな行事にお忙しいのだろう。璃音も一日に一度、顔を見せるくらいだ。


 寂しくはある。


 だけど同じ空間に身を置いている――そう思うだけで、心満たされる。そしてそれはきっと王上も――と、何のためらいもなく思える。


 次にお会いするときには、真実を話すと決めている。


 だからなのか、お会いしたいと思いながらも、その日が来るのが怖いという思いもある。


 だけどもう決めた。あの方には、偽らないと。


「おやすみ」瑛明は肩越し振り返ってみせると、素早く寝室に身を滑らせ、扉を閉じた。


 そんな新年らしからぬ鬱々とした日々を、瑛明は淡々と過ごした。


 変わらず依軒は愚痴なのか小言なのか分からない毒を吐き続けていたけれど、不思議と聞き流すことができた。これまでは不快になったり、落ち込んだりしたけれど、今は「またやってる」とも「巻き込んで申し訳ないな」とも思う。


 結局は大事の前の些事、つまりは自分の心次第なんだな、瑛明は新年早々にそれを学んだ。


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