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きみは最果ての光  作者: 天水しあ
第六章『逢瀬』
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第四十八集「自覚」

「お気をつけて」


 王師と璃宇に送られ、王と瑛明は地下通路に下りた。てっきり璃律も一緒に帰るものだと思ったけれど、どうやらそうではないらしい。燈籠を受け取るときに、なんとなくふてくされた様子で渡されたので、王から「行きと同じく後から来い」とか言われたんだろうな……。ちょっと気の毒に感じたら、その気配を察したのか睨みつけられた。やれやれだ。


「だいぶ遅くなってしまった。今頃、璃音がやきもきしているだろう」

「そうですね。依軒が戻ってきたら話がややこしくなりますし。王上、こちらです」

「凄いな瑛明。一度しか通っていないのに、足場の悪いところをちゃんと覚えている」

「道を覚えるのは、結構得意なんです」


 流転の生活のおかげかな――最近、色々な場面でそう思うことが多い。

 あの頃は、生きることだけに必死だった毎日に、得るものなんか何もないと思っていたのに。


「なんだか今日一日で、瑛明の色々なことを知った気がする。楽しかった。本当に……」

 まるで独り言のような言葉が、ひっそりと闇に溶けていく。


 途中で門が現れた。

 そのたび王が瑛明の隣に並んで鍵を開け、閉める。門を五つ通過してしばらく進むと、燈籠の小さな明かりが作る陰影が階段の存在を示した。

「璃音が長櫃の傍らに控えているはず。一度、床板を叩け。そうしたら鍵を開けてくれる」

 そう言われて、瑛明は来た道に目を投げる。小さな光が揺れながら、こちらに近づいているのが見える。あの速さなら、直に追いつくな。

 「分かりました。じゃあこれを」瑛明は左手の燈籠を、並び立った王に手渡した。

「ああ、気をつけて」


 王がそれを右手で受け取ったことを確認し、「では」と言い置いて瑛明は踵を返す。 そうして、竹林の階段を下りたときからずっと繋ぎ続けていた手を解いた。いつ繋いだのか覚えていない。きっと王から繋がれたんだと思う。


 でも――自分も繋ぎたいと思っていた。


 瑛明は、木の板に手をかけながら這うように階段を上がる。王は下から足元を照らしてくれていた。進みに合わせるように、明かりもついてくる。

 やがて頭上には天井、瑛明はドン! 短く、やや強めに床板を叩いた。


「瑛明さま?」

 板の向こうから漏れてきたのは、珍しく慌てた声だ。申し訳なさが込み上げる。

「うん、遅くなってごめん。王上もご無事だ」

「分かりました、すぐにお開けします」

 どうやら依軒はまだ戻っていないらしい。ほっとして瑛明は振り返る。

「王上、それでは――」


 言葉が詰まった。

 いつの間に上ってきたのか、王がすぐ後ろに立っていた。いつ持ち替えたのか、燈籠は左手にある。

 空いた右手が、瑛明の右腕を強く握った。 

 まるで縋りつかれたかのように、身体が僅かに前のめりに揺れたその瞬間、唇が触れた。


「瑛明さま、お待たせしました」

 声とともに、頭上から光が射しこんで来る。王は顔を上げ、

「璃音、遅くなって済まない。師と兄上はお元気だったぞ。瑛明が少し怪我をしてしまったから診てやってくれ。瑛明、じゃあまた」

 いつものように柔らかく笑いかけられたものの、瑛明は茫然として、思い出したように頷くだけで精一杯だった。


 ほどなく璃律がやってきた。璃律は全くこちらを見ずに、「急ぎ戻りませんと」そう言って、王の歩みを促す。遠ざかっていく二つの灯は、やがて闇に消えた。


「瑛明さま?」

 頭上から璃音の声。肩越し振り返った。


 「いま行く」そう答えて階段に足をかけると、璃音は長櫃の前から去っていく。瑛明は次の歩を進めたところで立ち止まり、瞑目した。


 大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。


 嗚呼、もう無理だ。ごまかすのは。ゆっくりと頭を振った。


 ――俺は、王上が好きだ。



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