第三十四集「本性」
話の内容はこうだ。
王には常に暗殺の危険がある(「ないとは言わないが、ここは桃源郷なのでは!?」という声は心に留め置いた)。
ということで、極度に心配性――もとい、繊細だった現王の祖父である先先王が、いざというときに備え、王宮外に通じる脱出路を地下に張り巡らしたのだという。
瑛明が使うこの部屋は、かつて母・玲華が使っていた。そして今、王が使うのは先王の部屋。
二人は双子の兄妹で、非常に仲が良かった――だから、この秘密通路を使って、お互いの部屋を行き来していたというのだ。
長櫃の底は外れる仕組みであり、そこが地下の秘密路に通じている。普段は底と蓋に二重に鍵がかけられており、「入ってかまわない」、というときには鍵を開けておくというのが兄妹同士の暗黙の約束だった。そして同じ造りの長櫃が、王の部屋にもあるのだという。
「何か質問は?」さらりと王に問われた。
だから瑛明もさらりと訊いてしまった。
「秘密路の全貌を知ってるのは、この桃花宮に住んでいた王族の方と、お仕えの国師一家の侍女や太史たちとのことですが、じゃあ依軒も?」
「彼女は知らない。あくまで国師の直系のみに伝えられる話だ」
母の乳姉妹だった依軒は、国師の遠縁であるとの話だった。直系にたまたま年の頃が同じ娘がおらず、依軒が侍女として母に仕えることになったのだという。裏付けるように、依軒は娘の年頃であるはずの璃音に頭が上がらないようだった。
こんなところにまで格差が――自分の侍女を少し哀れに思いながら、
「秘密路を作った職人たちがいますよね? そこから漏れることはなかったんですか?」
「ああ、それなら」王は非常に軽やかな声を上げた。
「作業は危険が伴うということで、集められたのは隔離され、死罪を待つ罪人たちだった。彼らは実によく働いてくれたので、無事に作業は終わった。その働きを労うため、最終日には王から高価な酒が差し入れられた。だけど悲しいかな――飲みつけていなかったからか、働きづめの体に酒が回り過ぎたのか、みんながあっという間に酔いつぶれてしまってたそうだ――火の始末しないままに。宿舎は火に巻かれて誰一人として助からなかった。恩赦も検討されていた矢先だったというのに、残念な話だ」
戦慄した。
誰が、どう聞いたって、最初から始末するつもりだっただろ!?
それに、いくら自分が手を下したわけじゃないにしても、そんな綺麗な顔して――怖っ!!
「引いたか?」
瑛明の心中を知ってか知らずか、王はどこか楽し気な様子で、そう訊いてきた。
「いえ、少しも」
内心を言い当てられて大いに動揺した――はずなのに、さらりと口をついて出たのは、自分でも驚くくらいに落ち着いた声だった。
どうしてなのかは分からない。
だけど、この人がどれだけ酷いことを言って、またやったとしても、俺はやっぱり驚いて、ぞっとして、それでもきっと、この人を拒絶できない――そんな気がする。
「結構」王はそう言って、中指に引っ掛けた小袋の紐を外して、瑛明の掌の上に置いた。
「では、これはおまえに」




