ポニーテール
――あぁ、もう、どうしてこうなるの!
昼休みに入った中庭。
私は言い合う二人を前に、おろおろするばかりだった。
うっかり握りしめてしまったメロンパンは、きっと紙袋の中でペシャンコになっているに違いない。
「……うちらのせいにするつもり?」
「どっちがだよ!さっきから辻褄あってないのわかんない?ばかなんじゃん?自分が何言ってるかわかってんの?もっかい頭ん中整理して出直してこいよ」
「ちょ、ちょっと言い過ぎ、」
どんどんヒートアップしてくるサラにいよいよ口を挟んで、彼女をとめた。
心臓が爆発しそうに鳴っている。
「うるさいな、今あたしコイツと喋ってんだけど」
「でもさっきから、さすがに……、言い過ぎだって」
唇をかみ締めて今にも泣き出しそうな相手の女の子を前に、サラの追撃が止まる気配はない。
「は?喧嘩売ってきたのあっちじゃん。なんでこっちが引かなきゃいけないの、自分の発言にも責任持てないなら最初から喧嘩なんかふっかけてくんなよ弱いくせに」
いよいよ彼女の涙が溢れ出す。
「ご、ごめんね!ちょっと言い聞かせとくから!」
そう言って私はサラの手を取り、無理やり歩き出した。
「あぁ……」
やっぱり潰れていたメロンパンを見つめながら、私はベンチでため息をついた。
隣のサラは無表情で焼きそばパンを貪っている。
「さっき……ごめん、でも泣かせるまで言い負かさなくても……」
「そんなのあっちの問題じゃん。大体あたしに文句あるならこんなとこで後から絡んでくるんじゃなくてちゃんと教室で、その場で言えって感じだし」
「それはそれで配慮なんじゃないの……」
いびつなメロンパンを食べる気にはなれずに、それに視線を落としたまま小さく呟いた。
「は?違うっしょ。言えないだけでしょ?腹立つんだよ。言いたいこと言えないとか、我慢してるとか、勝手に自分でそうやって縮こまってるくせにこっちを巻き込むなっての。正面から来いよ」
「……サラにはわからないよ。言えない人の……こっち側の気持ちなんか」
「なにそれ?………まぁ、そうかもね。わかりたくもないし。そうやっていつまでもうずくまって慰めあってれば?同じ場所でさ」
自分から割り込んだことなのにいくらか腹が立って、私も少し、つっけんどんになる。
風に煽られる前髪が鬱陶しくて、押さえつけながら彼女に言った。
「サラは強いからそんなこと言えちゃうんだろうけど。みんながサラみたいに強いわけじゃないし……弱い側のこと、見てみても……ペース合わせても、いいんじゃないの」
「うざ。なんで?」
「……周りも、サラも、そのほうが……傷つかない気がするっていうか……みんなで円満にいられるじゃん……」
俯いたままそう言った時、サラが明らかに面倒臭そうな顔をしたのがわかった。
私の方なんて見てもいないのに、わかった。
「知るわけないじゃん周りとか。みんなとか。てかみんなって誰?どこまで?傷ついたって一人になったって、別に私はそれでいい。そこでうじうじ野垂れ死にたいなら勝手にそうすれば」
心底嫌そうな声でそう言って、彼女は行ってしまった。
長いポニーテールがとてもかっこよく見えて、ただただ自分がいたたまれない。
私は間違ってないと思う。思う、のに。
なんだか私が泣きたくてたまらなかった。
きっとこれからも、彼女はそんな彼女のままで、自分の道を走り続けるのだろう。傷ついても迷子になっても、時に立ち止まる時があったとしても。
そんな彼女に憧れて、近くで応援していたかった。力になりたかった。だからここまでずっと、一緒に過ごしてきた。
でももしかしたら……私は彼女の隣にいることで、彼女にあやかりたかったのかもしれない。
そう気づいてしまったらもう、自分の弱さが醜く思えて、到底彼女のそばにはいられない気がした。




