私たちの、初任務!?
トントン
「失礼します。近藤勇です。新道と沖田を連れてきました。」
「入れ。」
「失礼します。」
スーッ
家長の間って、父さんの仕事部屋だったんだ。
母さんに頼まれて、一度だけ父さんの仕事部屋に入ったことがあったんだ。古そうな本が本棚を埋め尽くすくらい入っていて、読書好きの私は本を読んでみようと思ったら、透明な壁のせいで近づくことができなくて泣いたんだよなぁ。懐かしい・・・。
「誠奈、入らないのか?」
「あ、入るよ。」
ボーっとしてしまった。失敗したなぁ。次からは気を付けよう。
私が襖を閉めたことを確認して、父さ、じゃなくて新誠先生は話し始めた。
「誠奈と総司には、この人を探して元の時代にかえらせてほしいんだ。」
新誠先生の取り出した紙には、似顔絵と名前、簡単な特徴が書かれていた。
氏名・島津於一 年齢・一三歳 出身・薩摩
特徴・元気でケンカが上手い・薩摩弁を話す
名前が、しまずおかつ。出身が薩摩、今の鹿児島県か。
って、島津?
「あの、新誠先生。」
「何だ誠奈。」
「この方って、もしや、江戸幕府一三代将軍徳川家定の御台所の篤姫様ですか⁉」
「・・・正解だ。さすが歴史好きなだけあるな。」
トントン
「誠奈。みたいところ?って何?」
私の肩を叩いて小声で聞いてきた総司に、小声で返す。
「み・だ・い・ど・こ・ろ。御台所は通称で、正式名は御台盤所。将軍や武士の
正式な奥さんの呼び方のことだよ。」
「ありがとう・・・。」
このやり取りを見ている新誠先生に、総司は笑われてしまった。
「総司。お前も誠奈に歴史を教えてもらいなさい。この隊務全般で歴史が必要になるからな。」
「はい。」
「ちなみに誠奈。お前は世界史も勉強しろ。日本史だけでは成り立たなくなるからな。」
「・・・は~い。」
世界史苦手なのになぁ。
「で、こいつを見つけたら、刀でこの祝詞を唱えながら切れ。祝詞はこの紙に書かれている
から、まずこれを覚えろ。」
「「はい。」」
時の神・月読命よ、旅の神・猿田彦神よ。
かの者を元の時代へ戻したまえ。送封。
これが祝詞・・・。カッコイイ!
「新誠先生、これをすぐに覚えなくてはいけないのですか?」
と私は質問する。
「あぁ。すぐに隊服を着て探しに行ってほしいからな。」
ウソでしょ~っ!
「承知いたしました。」
さすがに、ウソでしょ~っ!とは言えないからね。心の中にしまっておこう。
「新誠先生。今日は、俺とトシの巡察に誠奈と総司を連れて行ってはよろしいですか?」
「・・・許可する。誠奈と総司は、勇と歳三の働きを見て学べ。」
「「承知いたしました。」」
巡察しながら祝詞覚えようっと。
「なぁ誠奈。巡察ってな・・。」
「巡察っていうのは、地域を見回って事情を調査することだよ。」
私をGoo〇leのように使うな!
って、いつも思っているんだよね。総司のおかげで耳が良くなったのはうれしいけれどね。
「はぁ・・・・、総司。お前は国語も勉強しろ。今のお前は言葉を知らなさすぎる。」
「し、承知いたしました。」
父さんありがとう!これで肩の荷が下りるよ。
「誠奈。一日二〇〇円渡すから総司に勉強を教えなさい。その日勉強したところは一週間後にテストをするからそのつもりで。もしテストの点数が悪かったら、お金は没収するぞ。」
「はい・・・。」
父さんからの命令は絶対に従わなくてはならないという裏家訓があるくらい断れない。
「教材はこちらで用意するからまずは隊服を着て隊務に行け。いいな。」
「「「はい。」」」
これはきっと隊務でも同じだと思うので、首を横に振ったりしない。したら父さんに怒られそう・・・。
家長の間を出た私達は、着替えのために急いで寮に向かう。
「誠奈ちゃん、総司。ちょっとこっちに来てもらっていい?」
と言われるがままについていく私と総司。階段で二階に上がると、すぐに右に曲がった。そっちには、元々私の部屋があったはず・・・・。
カチャ
「え、なにこれ~⁉」
勇兄が扉を開けたその先には、ハトが四羽いた。
元々女の子の部屋だとは思えないほど壁紙が剥がれたりしていて荒れていた。
すると
クルックークルックー・・・
という鳴き声をしながら私と総司に近づいてくる。
「あ、動かないで誠奈ちゃん!」
「えぇ!」
私、ちょっとハト苦手なのに~っ。
ひぃぃぃぃ!近づきすぎだって!
最初は五mくらい離れていたはずなのに、いつの間にかもう足元に。
パタパタパタ
ひぃぃぃぃぃぃ!飛んだ~!
私は声にならない叫びをあげる。なんか左肩が重いなぁ、と思って見てみると・・・。
ぎゃぁぁぁぁ!ハトが肩に止まっているよ~っ。
「あ、総司と誠奈ちゃんの肩にハトが止まったね。それが二人のハトだよ。名前付けてあげなよ。」
な、名前⁉う~ん、
「じゃあ、私の子は江ね。五月雨江。」
「俺のは、清光だな。加州清光。」
「ははははは・・・。二人とも、そろって刀の名前からとったのか・・・。俺らと変わらないな。」
「確かに。名前、何て言うんですか?」
「それはね、総司、虎徹、長曽祢虎徹。」
「なかそねやすひろ?」
「馬鹿総司、違うでしょ。正解は、な・が・そ・ね・こ・て・つ。ていうか、仲曽根康弘って、日本の元首相だよ・・・。」
どこで知ったのよ、その知識。
「ちなみにトシは、和泉守兼定って名を付けたな。普段は兼定って言っているけど。」
「へぇ、カッコイイな、トシ兄の。いずみかみかねさだ、だっけ?」
「惜しいよ総司。いずみ・の・かみかねさだ。」
確か、幕末に活躍した新選組隊士の愛刀が、土方歳三は和泉守兼定で、近藤勇は偽物説が多いけれど長曽祢虎徹、沖田総司が加州清光だったような・・・。刀の擬人化したゲームが学校内の女子の間で流行っていて、友達に無理やり覚えさせられたんだよなぁ。まさかあのゲームが役に立つ時がくるとは・・・。確か五月雨江は、江戸時代初期の研究をしていた時に出てきたはずなんだよなぁ。ま、いっか。
「名前をすでに喋っているからもう登録されているから、呼びたいときに呼べば飛んでくるよ。」
「「はい。」」
「じゃ、そろそろ寮に戻ろうか。二人とも着替えないといけないよね。それより、そろそろトシから
連絡が来てもおかしくはないんだよな~。」
パタパタパタッ
ハトが飛んできて勇兄が急いで左腕を出す。
「歳三から報告。急ぎ集合場所に来るように。だそうです。」
「ありがとう、兼定。トシに、総司と誠奈ちゃんを連れて行くから遅れていく、って伝えてください。」
「分かった。」
というと、すぐに姿を消してどこかに行ってしまった。
「二人は急いで着替えてきな。トシは俺が止めておくからさ。」
「「は~い。」」
と言うと、私達は猛スピードで走りだした。