第9話 元聖女は泣き虫さん
お待たせ致しましたー
余程……皆様は私の名前を知りたいのか、とても御顔を輝かせてくださった。表情が薄いと思っていた翠雨様までも。
しかし、名をきちんと名乗らないのは無礼に等しい。ましてや、彼らは大精霊様方なのだから。
なので……私は少し距離を置いて、最敬礼を皆様の前で披露した。
「……ミラジェーン=アクエリエスと、申します」
「じゃ、ミラだー!!」
名乗ったあとに、また緑斗様が私に抱きついてこられ……あの豊満なお胸で私の顔半分を包み込んだ。少し……苦しい。
「あ、リョク!? 俺が一番に言おうとしてたんに!?」
「へっへーん! 早い者勝ちだもんね!!」
「……緑斗。ミラ……が苦しそう」
「あ」
窒息ほどではないが、翠雨様のおっしゃるとおりに苦しくなってきたので……離していただいた後は、大袈裟なくらいに息を乱した。
「ときに、ハクよ。あのような大掛かりな召喚を行える者……ミラは、ヒトの子では『聖女』であったのだろう? 何故、妾らの里に連れてきたのかえ? いや、救ってくれた恩人じゃからこそ気になるのじゃ」
「あ〜〜、それなんやけど」
珀瑛様は一度私の方を見られた。私の口からよりも、彼が告げていいかどうかの確認なのだろう。
私から口にすると……また泣くかもしれないので、頷いた。
「……珀瑛様、お願い致します」
「おん。実は……ミラは王家の勝手で、追放された『元聖女』なんや」
「へ?」
「ほう?」
「ミラ……あんなすごい、のが出せたのに?」
「俺らにはご馳走でも、ヒトにとっちゃゴミやからな? 俺が向こう側に出た時に、ミラは追放させられた後やった」
その通りなので……私は小さく頷いた。事実だけど、今はここにいるお陰か……先ほどのような涙はあふれてこなかった。
「なにそれ!? 聖女って、ヒトの子らが与えるだけじゃなくて、神がお与えする特別な称号でしょ!? ……けど、ミラ。前は普通の召喚魔法使えてたの?」
「……はい」
それも事実なので頷けば、温かな手が私の頭を撫でてくれた。振り返ると、その相手は凰華様だった。
「……それなのに。今は妾らにとっては益となる物しか召喚出来ん。となれば……あれらは、誠に阿呆じゃな?」
「……え?」
私がわからないでいると、凰華様は唇をゆっくりと半月のように緩ませた。
「ヒトは知らぬことが多い。妾ら大精霊らにとって、お主の召喚魔法は非常に助かる大魔法じゃった。それをまったく知らぬ、そのような王族……いずれ、天罰が降り、国も滅ぶじゃろうて」
「……ほ、ろぶ?」
私を追放しただけで……滅ぶかもしれない?
それは……信じられなかった。
けど、何故か。
胸の奥で……いけないことだと思うのに、安堵の感情が芽生えたのだ。
「せやで! 聖女の称号を持つミラを、自分勝手な都合で追放したとなれば……神が黙っとらん!!」
「……うん」
「私もそう思う〜!」
皆様にまで頷かれると……やはり、心の安堵感が、強くなっていく。
だから、今は……声は上げなかったが、素直に『嬉しい』と涙をあふれさせた。
「ミラは泣き虫さんやなあ? せや! 次に助けてほしいとこがあんの忘れてた!!?」
「「「あ」」」
「ど……なた、でしょう?」
「精霊王様や」
「え」
安心したところに、また大変な事態が起きようとしていた。
次回はまた明日〜




