第33話 その夢は
お待たせ致しましたー
誰かが泣いている。
気づいたのは、真っ暗な何処かに居るとわかってから。
珀瑛様方はいらっしゃらず……私だけ。
けれど、私は自分の手なども見えず……ただ『居る』ように感じた。どう言うことなのかよくわからない。
『お……かあ、さ。おと……う、さん』
泣いていると同じくらいに聞こえた、声。
それには聞き覚えがあった。当然だ……幼いが『自分の声』なのだから。
『帰り……たい。どこぉ』
どこ。
そこは王城。
どこ。
それは、私を縛りつけていた……あの王族の住まう場所。
私を……『聖女』に仕立てて、自分達にとって都合の良い存在で居させようとしていた。
唯一……まだ王太子になる前の王子だった彼は……時々、遊んでくれていたような思い出がある。私を追放する宣言をする前……お互い幼かった時は、少しばかり優しかった気がした。
(……けど、今はそれも関係がない)
追放されたのは本当だ。
あの王族と変わりない成長をした、王太子に憧れていた気持ちは……今は特にない。
珀瑛様と出会い、これ以上にないほどの慈しみをいただけたのだ。それを知ってしまうと……王太子が過去に私にくれた優しさなど、すぐに霞んだ。
まだ幼い私の泣き声が聞こえるが……つまり、これは夢。
いつのまにか寝てしまい、このような夢を見ているのだろう。なんとなく、進んだ場所には……幼い私が泣きじゃくっているのがぼんやりと見えてきた。
『帰り……たい』
無理だ。帰れない。
それを口にしようにも……これは夢なのだから、私は私自身に告げられないし、触れることも出来ない。
そう思っていると、頭を下げていた……幼い私の顔が見え。
『がえり……だい!』
目が。
瞳が……なかった。ぽっかりと穴が空いたように、何もないのに涙だけが流れていて。
怖くて、勢いよく逃げていくと……暗闇から真っ白なところに行けた。
起きたのか、柔らかな何かの上で……私は、目を覚ましていた。
「お? 起きたん?」
珀瑛様だ。
何か読まれていらしたのか、本を持っていた。
「……わ、たし」
「無理に起き上がらんでええで? 腹一杯になったんで眠くなったんやろ」
「……ここは?」
「ミラの部屋や。それはベッド言う寝る時に使うもんや」
「……柔らかい、です」
「眠いならもっと寝とき? それかなんかおしゃべりでもするか?」
「……お、話ですか?」
「せや。お互いほとんど知らんままで、一緒に生活するんはつまらんやろ?」
ああ……本当に。
この方は……私を喜ばせてくださるのが、とてもお上手だ。
もちろんだと頷いたが、まだ少し眠いのもあったので……不躾だが、横になりながら色んなお話をさせていただくうちに。
あの怖い夢をほとんど忘れることが出来た。
次回はまた明日〜




