9.聖女、東の荒れ地を旅する
今日は、東の荒れ地を探索する事にした。
神様から、今回は、特別に3週間の期間を貰った。
王都から、特急馬車で5日の東の荒れ地前に来ている。
荒れ地前10kmに村があり、そこで馬を借りた。
東に向かうには、10km位ある暗闇の森を抜けなければならない。
荒れ地に行く前に、神様から話を聞いて来たのだが、暗闇の森があるが、聖女が行けば自ずと通れるようになるそうだ。
神様が、必ず東の荒れ地の中心に行き、どんな状態か確かめてこいとの事。
中心に行くのは、“中心に行きたい”と願えば勝手にその方向に道が開けるとの事だった。
取り敢えず、馬にパワーチャージを付与し、暗闇の森に向かった。
森に着くと、勝手に森が開き、真っ直ぐな道が出来た。
暗い中、猛スピードで、10km程の森を抜けると、そこは、草木も生えない砂漠だった。砂漠の砂は、木が燃え切った時の灰のようで、触ると風に乗って消えていく。
そこに馬が足を入れると、灰色が白くなり、一直線の道を示した。
「ここ通れって事よね」
誰も居ないが思わず喋ってしまった。
物凄いスピードで馬は走る昼夜問わず丸一日走った。
「パワーチャージって凄いわね。疲れてない?」
馬に聞くと“ひひーん”と雄たけびを上げ、
「まだまだ行けるぜ、ベイビー」
と言っているような気がする。
白い道は、終わりを告げた。そこには、直径10mの大きな石らしきものがあり、卵を立てて下が埋まっている様な形をしたものがある。
灰を被っている石を手で擦ると、
「これは、あの石と同じものに見えるわ。一体何故こんな所に」
入口を探し、“ぺたぺた”外周を触ってみたが入口は見つからなかった。
パワーチャージも付与してみたが、入口は、開かなかった。
代わりになぜか周りが緑の草が繁茂した。
「まさかオシッコ掛けると開くとか?」
誰も見ていないが、さすがにレディーには出来ないと思ったが。またここまで来るのは・・・・。
やっぱり開かなかった。
「やるんじゃなかった」何かを失ったような気になったマリオンだった。
帰る時も白い道が現れ、森を抜けて、近くの村まで帰って来た。
馬を返し、今日はこの村で一泊することにした。
この村の臨時の宿屋として村長宅に泊まった。
「いやー、聖女様が我が家に逗留される事があるとは、末代までの栄誉です。」
そう言って、一部屋タダで泊まれることになった。
ちょっと申し訳ないとも思ったので、
「この村で体の具合の悪い方はおりますか?」
「うちの娘が生まれた時から寝たきりで、いつ死ぬか分からぬでな、通りすがりの名医と名高いお医者様に見て貰ったら、生まれながらの病だで、聖女様でも直せねーと言われました。それでも親としては、診て頂きたいだが、宜しいですかいのう。」
「ええ、構いませんよ。」
娘の寝床へ行くと、透き通るほど真っ白な、血の気が全くない肌をした娘が殆ど虫の息で寝ていた。
「アナライズ」
これは、血の病気ね。血が固まらなくなる病気で心臓も相当弱っているわ。
「エクストラヒール」
体全体を包むように、白い光が10才位の娘に染み込んでいく。
「キュアヒール」
こう言った状態になると、他の病気にかかり易くなって命を落とすのよ。
娘はゆっくり目を覚ました。
起き上がろうとするのを手で制し、
「駄目よ、まだ起きちゃ。もう大丈夫だから栄養を沢山取ればすぐ元気になるわ」
「ありがとうございます。聖女様」
彼女は、直感的に聖女と思った。
「ほんとだか、本当に娘は治っただか、おっ母、おっ母 聖女様が娘を治してくれただ」
そうして、母親も現れ、三人で抱き合って号泣しだした。
他にも病人がいるのなら来て頂ければ治療します。といったら村中から50人くらい集まって来た。
全員を村長宅の前に並ばせ、
「エリア・ハイヒール」
全員を癒し、村長に聞いた。
「この村には、奴隷の方はいないのですか」
「おりますが、さすがに聖女様の前に出すのは拙いと思いまして」
無理やり全員を連れてきてもらった。
「エリア・ハイヒール」
足を引きずる者や、生気の無いものは、いなくなった。
次に寝たきりの家も回った。
ここの奴隷は、掘っ立て小屋だが家があった。顔色も私が住んでいた村とは比べられない程いい。
これは、村長含め村人の奴隷に対する待遇が良い事が伺える。
きっと優しい人だろう。
一件の奴隷の家で寝たきりになっていた中年のご婦人が、
「私など生きていてもいい事などございません。このまま死なせてください。」
人生に絶望しているのだろうな。
私の力では、心までは癒せない。なぜか無力さを感じる。
ただ、
「そうですか、私は生まれた時から奴隷でした。
でも春になれば土筆がにょきにょき出てくるし、秋になれば葉が赤くなる。それだけでも私は幸せでした。
貴方の心は癒せませんが、生きていれば、何か楽しい事が見れるかもしれませんよ」
そう言って彼女を治し宿に戻るのだった。
本当は、奴隷時代は辛かった。13才を過ぎるといつだれかに犯されるかびくびくしていた。でも、それでも生きていたかった。
人間は、健康であれば、楽しい事もある。ご飯を食べるだけでも楽しい事はある。
生きていれば、殆ど辛いことだらけだ。
いつも幸せ何てあり得ない。
辛いときにほんの少しでも楽しい事があるから幸せなんだと思う。
それなのに、自分達だけ贅沢な暮らしをし、自分だけ幸せになることを考え、人の命など虫けらのように扱う奴は、やっぱり許せない。
そう思うマリオンだった。
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