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7.聖女、おばちゃん達に詰め寄られる


1年間、国内の色々な村や街を見て回った。

民は、8割の税に苦しみ、食うや食わずの者が半分を占めていた。特に農村部は酷く、子を売るもの、豊作なのに冬を超えられず餓死するものが大勢いた。

自分が生き残るために、殺人、盗人などありとあらゆる犯罪が行われているにも拘らず、国は何もしないで、特権階級だけが贅沢三昧の毎日だ。

・・・・・石の中で、・・・・・

「聖女よ、先ほどから何を考えている。国の実情を見て来たのだろう」


「そうなんですが、この国を立て直そうなど、私の知識・知恵では、到底無理だと知りました。

最初は、税を引き下げて貰えば、少しは、皆の暮らしが向上し、良い方向に向かうと思ってました。


でも、そんなことしても一時しのぎにしかなりません。人に仕事をさせ、結局自分が楽をしたいと思う気持ちが元に戻してしまうでしょう。

私の浅知恵では、どうにも出来ないし、今の王家の考えでは、到底是正する事は出来ないと思ってしまって、全く皆が幸せになる方法など見当もつきません」

「そうか? お前が出来る範囲でしかお前には出来ぬ。

つまり、お前の出来る範囲をすれば良いのではないか。


今ある材料で最善を尽くす以外に方法はあるまい。

お前が望まなければ、我は手を貸すことはしない。


お前は、誰を助け、誰を導くのだ。そして誰を切り捨てるのだ?

誰でも助ける事は、お前には出来ぬぞ。

さすれば、おのずと答えは出よう」


さすが、神様だわ、誰でも助けようなんて“神にでもなったつもり”って言われてもおかしくないわね。

本当、私ってどうしようもないバカだわ。


私の気持ちは一つしかない。

皆が一生懸命働いて、ご飯を食べ、勉強し語らい、男女が仲睦まじく未来を信じ、子が生まれ次の世代へ繋がれている未来が想像できる世界こそ私が求めるものよ。

決して、人の上に胡坐をかき、自分は、食べるための努力もせず騙して上手く渡る者が幸せであってはいけない。

けれど犯罪するものには罰が必要。決して人間は完全ではない。

公正な裁きは、必要だと思う。

ただ、難しい決めごとを作れば作るほど人間は狡賢い者だけが生き残ってしまう。

この世界の頂点に立つものが狡賢い者しかいなければ、いつか衰退してしまう。


そう考えれば、自ずと残す人間と排除すべき人間は、決まって来る。


段々と方向性が決まっていくマリオンだった。

・・・・・・石から出てみると・・・・・・・・・・・・・


石から出ると、商店街のおばさん達が待ち構えていた。

一人目は、門の右前で“聖水漬け”を看板にする漬物屋

聖水を薄めた水で漬けた浅漬けが万病に効くと看板に書いてある。


二人目は、門の左前で“聖水焼き”を看板にする饅頭屋

聖女らしき焼き印を押した饅頭で、聖水が入っている饅頭を旅の記念にと書いてある。


三人目は、漬物屋の横で“聖女せんべい”を売っている煎餅屋

聖女らしき焼き印を押した煎餅で旅の記念にと書いてある。


四人目は、饅頭屋の隣で聖女グッツを売っているアクセサリー屋

聖女が着けているアクセサリーのレプリカを販売する店と書いてある。


お店は、30ほどあるが、この四人が代表のようだ。


「聖女様、2週間も聖水を空けられると、お店の商売に差しさわりがあるんだよ。恒例の1週間が限度なんだ。勝手にスケジュール替えたら困るんだよ。まったく」


「神官にだって、聖水コップ一杯銀貨5枚払ってんだ。大分まけてくれたけどこっちはギリギリなんだ。聖女なら金を払ってるうちらの言う事を聞くのが当たり前だろ

だいたい貴族のご婦人の若返りのために一番最初は、その人達優先なんだよ」


「聖女様が、スラムや街角で皆を癒すと、こっちに客が来なくなっちまうんだよ。治すなら、門前でやっておくれよ。商売できなくなっちまう。聖女ならうちらの商売も救うのが筋ってもんじゃないかい」


「今までの聖女様は、必ず豪華なネックレスやブレスレット、ブローチなんかしてたのに何にもしないから商売が出来ない。うちで作ったものつけて欲しいんだけど。頼むよこれ以上何もないと父ちゃんと首をくくるしかなくなっちまう。」


と言う。


先ずは、

「内容について、少しは理解しましたが、貴方たちの商売のために聖女をしている訳ではありません。


1週間に一度など誰が決めたのですか、それは、私が決める事で、数百年同じ事が続こうが、私の知ったことでもありませんし、貴方たちに通達する義務はありません。

ただ、暫くは、ここにいるので毎日続くかも知れませんが、確かでは在りません。


次に神官にお金を払っていると言っていましたが、初耳です。私は、受け取っていませんし、関与もしていません。自由に持って行って構わないと思っていましたが、今回の件で考える事にしました。


次に、他での活動ですが、なぜあなた達に都合の良い場所で行わないといけないのですか、もし、私が駆け付けなければ、多くの命が失われていましたよ。

貴方たちの商売を救って、多くの命を犠牲にしろと言うのなら、今日から貴方たちは、敵です。ここは、聖女王国です。私を敵に回すという事はどう言う意味かご存じですね。今後一切聖水も渡しませんし、ここの商売は、全く聖女とは関係ありませんからと看板を立てます。この商売を辞めた方が賢明です。


ネックレスなどは、清貧の聖女が元来するものではありません。ただし、私も女です。こんなのが欲しいなとかのアドバイスはできますから、見せて頂ければ聖女の好きなアクセサリーとして売れば嘘ではなくなりますよ。」


彼女たちは、縮こまってしまった。

「だって、今更商売変えろって言われたって、子供が小さいし、今までこの商売以外したことないし、どうやって食っていくのさ。結局アクセサリー屋だけが大丈夫なだけだろ」

まあ、悪い人達では無さそうなので、助け船を出そうと思う。

「私も人間です。先ず、貴方たちの食べ物は、美味しいのですか」


「そりゃあ、この道何百年、代々店をやって来たんだ。味が拙けりゃ客など来なくなるさ」


「では、こうしましょう。皆さんの食べ物が美味しかったら、私が美味しいと言ったお店として売り出せばいいのではないですか、あくまでも美味しかったらの話ですよ」


「それだったら自信があるよ。今までの聖女様は庶民の食べ物などお口に合わないそうで見る事すらしませんでしたから」


「では、お昼から試食をしに行きますので、お店で待っていてください。

あくまでも美味しかったらですよ」

そう言って皆を帰らせた。


次に、問題となっている神官を呼んでもらった。

大聖堂は、2階があり、聖女教の司祭1名・神官8名が寝泊まりしている。

聖女教には、聖女経典があり、大聖堂の北側で信徒と経典について勉強会をしている。


聖女経典には、聖女への行動規範がある。

・聖女は、敬わなければならない存在である。

・聖女は、この国を導く唯一の存在であり、それに従わなければならない

・聖女の行動は、全てこの国の意志であり、疑う事は許されない。

と続く

司祭が神官全員を伴い現れた。

「聖女様、やっとお呼び頂けましたこと感謝いたします」

そう言うと跪いて

「聖女様、何なりとお申し付け下さい。」


「いやいや、私は、聖女教など知りませんので、どうか立ってください。

ちょっとお伺いしたいだけです。

聖水についてですが、一部の者を優先し、お金を取っているようですが事実ですか」


「はい、200年前からずっと取っています。」


「そんなあからさまに賄賂を取っている事を暴露されちゃうと質問しずらいわね」


「聖女様は、王家をどう思っていらっしゃいますか」


「酷い人達だと思う。どうにかできないかと思うけど今の所打つ手がないのよ」


「聖女様は、王家がお嫌いですか。それともお嫁に行って同族になりたいですか」


「絶対にない。あんな人を人とも思わぬ凶悪殺人鬼と一緒にいたい人がいたら、頭がおかしい人よ」


司教は、マリオンに司教の執務室に是非ともお越し頂きたいと執拗に誘うので行って見た。

そこには、今まで貧しい芋粥を全員で食べた鍋とお椀が置いてあった。


誰にも聞こえない様、カーテンを閉じ、ドアには見張りを立て、司祭が小声で話し始めた。


「聖女様には、大変失礼なことを致しました。どのような処罰でも受ける所存でございます。」

と前置きし、聖女教の歩みを話し始めた。


「建国当初から300年、聖女教も積極的に国政に関与し、聖女様の掲げる

“皆が努力すれば必ず幸せになれる国造り”に参加しておりました。

ところが、ここ200年の間、王族の方が聖女になったり、聖女が王族に嫁いで王族になってしまう方達ばかりになり、聖女教は疎かにされるようになりました。

聖女様含め王族は、民に全く関心を示さず、贅の限りを尽くすようになったのでございます。

この国は、聖女様が興したのになぜ王族、貴族がいるのか不思議に思われると思いますのでご説明いたしますと、元々は、聖女様を支える信者の一人が外国との折衝、契約などの際に一般の王国に合わせ、便宜上置いたものです。


聖女様は、30年で代替わりするため、一気に国全般をまとめる事は困難で、無理がございますことはご理解いただけると思います。


そこで、代替わりしても国事がスムーズに行くように、大使や大臣を置いて、対応していたのですが、諸外国との契約を行うのに玉璽を作り、便宜上、対外的には、折衝、交流も含め、大臣・大使が全権力者として振舞うようになりました。

その後、いつの間にかなし崩し的に国内の全ての承認も共有化の名目でこの玉璽で行うようになり、玉璽を持つものが最高権力者となり、王と名乗る様になったのが、現在の王族でございます。

錬金術みたいなお話しですが、ちょっと中間を端折り乱暴ではございますが、今までの歴史を要約するとこれが正しいと認識しています。


我々は、聖女様のする事に異議を唱える者はございません。意図が必ずあると信じております。いつか我々が必要になる時の為の試練と思い、我々の出来る事を精一杯しているだけでございます。


実は、聖女様がご誕生されてから今まで聖女様の行動を監視しておりました。

聖女様は、清貧であり、民を思い、それを癒す初代聖女様が残した文献の通りの方にございます。

我々は、聖女様が望まぬ限り一切何も致しません。我々は、聖女様のみを信仰する聖女様に尽くすために生きる者にございます。

では、これをご覧ください。」


そう言って司祭は、鍵のかかった重たい扉を開いた。


そこには、金色に光る金貨数十万枚が所狭しと積み重なっていた。

金貨には汚れひとつ無く、布で磨いていたのが分かる。


「これは、聖女様が必要になった時、お使い頂けるようにお布施や聖水の賄賂などを数百年に渡り貯めて来たものでございます。大変申し訳ございませんが、近頃貧民が増え、炊き出しなどに勝手に少々使用しました。お許しください。

これは、全て聖女様の物でございます。」


マリオンは、思った。

自分たちは、いつも芋粥を食べながら、この人達はこんな事数百年もしてきたんだ。

この人達は、信じない訳にいかないし、この努力を実らせてあげたいと思うマリオンだった。


「それから、聖女様になぜこんなことをお話ししたのかを聞いていただきたく思います」

「聖女経典の最後に我々しか知らない聖女様の秘文がございます。

“約500年の後、この世に起点の聖女が現れる。

その時、その聖女が何をしても、何もしなくても必ず命を懸けて従うよう心掛けよ。

我は、今からその聖女が何もしないで済むよう命を掛けよう

この事は、司祭・神官以外教えてはならぬ“

とあります。

今は、それから数えて499年になりますので、つまり貴方が起点の聖女である事は間違いございません。

この時に立ち会えた私は何と幸運な事か、どうか我々をお導き下さい。」


その古びた経典の文章をマリオンに見せた。


取り敢えず、仲間が出来たことは、嬉しい限りだ。


ただ、何をするのかが何なのか見当もつかないマリオンだった。




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