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5.聖女この国を少し知る


聖女は、右手に串焼き5本と左手に果物を交互に食べながら街を歩いている。

「旨い、やっぱり空きっ腹に食べると何でも旨いのよね。

この前までは、いつも空腹だったから、土でも美味しかったわ」


今回のお仕事で大変な思いはしたが、お金を手に入れた。

金貨100枚もあり、マリオンが食べるだけなら10年は暮らせる額だ。


折角なので、服も買いに行ったのだが、店員の嫌な顔がちらついて中に入りずらい。

どう見ても、“中に入るなオーラ”が超強度のバリアの様に立ちはだかる。


仕方がないので、店員に、近くに古着屋が無いかと聞いたら、すぐ近くにあると言うので行って見た。


そこには、所狭しと並んだ服が吊るされていて、横には少々曇った等身大を移せる鏡が置いてあった。

初めて鏡に自分を映してみると、そこには、髪は灰色の蜘蛛の巣になっている。着ているワンピースに至っては、きっと遠い遠い昔には、白だったんではないかとほんの少しだけ思わせる汚い鼠色だった。

至る所に穴や鍵裂きがあり、ちょっと見えてはいけない部分も角度によってはチラ見できる。

15才になり、栄養失調ではあるものの、少しの膨らみと出っ張りもある。

顔は、泥でまみれ、薄汚いので良く解らないが青い目をしているらしい。


店主らしいお婆さんが、右足を引き摺りながら曲がった腰を杖で支え、こちらにやって来た。

「おい、買うのか買わないのか、はっきりしな。スラムのガキみたいだが金はあるのかい」

店のお婆さんに怒られてしまった。


お金はあると言って、パンツ3枚と白のワンピース2枚、白いマントがあればと注文してみた。


お婆さんは、マリオンをしばらくじろじろ見ていたが、ごそごそと吊り下げてある服の奥の方からパンツと真っ白なワンピース、そして銀の刺繍が入ったマントを持ってきた。


「このマントは、聖女の様な気品がある逸品だ。マントの金はいい。どうせお前が払える額じゃない。

今まで私のお眼鏡に叶うものが現れなかったから売らなかったが、やっと売れそうだ。

金は幾らでもいい、本物の聖女に見える姿を見てみたい。

そこの風呂屋で体を洗ってからここに来い」


石鹸を渡され、風呂屋に行って見たが、初めてなので洗い方が分からない。仕方がないのでお金を払い、女性の三助さんに洗って貰った。


初めて尽くしと言うか何と言うか、自分が銀髪だと言うのを知ったのと肌が透き通るほど真っ白だった事を15才で初めて知った。


三助さんに「何回洗っても黒いから黒い肌だと思ったら、こんな透き通るような肌は初めて見たわ」と言われた。

ぼさぼさに伸びきった髪の毛も前は、眉毛の上あたりで、後ろは肩に乗る程度にそろえて切って貰った。


まあ、どうでもいいので古着屋に戻ったら、お婆さんが、もの凄い笑顔でこちらを見ていた。


「奥に行って着替えてきておくれ」

もう何か涙ぐんでいる。


着替えてくると、

「ああ、聖女様。子供のころ一度お目にかかってから、もう一度お会いしたかった。死ぬまでにもう一度だけでもお目にかかれて光栄です。

嘘でもいい、この姿を目に焼き付けて、私は安らかに眠れます。」

と泣きながら、跪いてこちらを見ている。

ちょっと困っちゃったな。と思いながら、


「立って」

と言って手を優しく掴み老婆を立たせた。ちょっとだけ力を込めて癒しの波動を送ったら、マントが銀色に輝き、老婆を優しく包んだ。

そして老婆は、ゆっくり立ち上がった。


「え?、腰が真っ直ぐに、あれ?足が痛くない。」


マリオンはにっこりと笑い老婆に金貨2枚を渡した。


「ありがとう、お婆ちゃん、そのうちまた来るね。」

と言ってマリオンはその場を後にした。

振り返り際に風が吹き、額が露わになりティアラの紋章が光り輝くのが見えた。


・・・・「本物の聖女だったんだ」・・・・


ストンと尻もちをつき呆然としながら、”にへらー”と笑いながら涙が頬をつたい、暫く佇む老婆の姿があった。


老婆は、二十年以上前にマントを売りに来た男の事を思い出していた。

血が滲む腹を右手で庇いながら、“はーはー”言いながら男は言った。

「これは、500年前の初代聖女が着けていたマントだ。

“はーはーはー”今の聖女はどこか腐っている。

次代の聖女にこれを渡したいが、最早叶いそうもない。

どうか、それらしいものがいたら渡してやってくれ。

“はーはー”聖女でなくともそれらしければそれでいい。

今の聖女にだけは絶対渡したくない。頼む」


そう言って、マントを無理やり渡され、神官風のその男は、裏路地に消えていった。

その後を騎士風の男たちが入って行くのを見たが、その後は何も起きなかった。


・・・・・・街を歩くマリオン・・・・・


「何かこのマントを羽織っていると快適ね。暑さ、寒さを感じないわ。

それにさっき力を使っても全然魔力が無くなる感覚が無いのよね」

いい物貰ったとウキウキのマリオンだった。


通りを歩いていると、勝手に前が開かれ、横に移動した民衆は、膝をついてマリオンを拝む。“聖女様”と言って恍惚の顔をする。

ちょっと引いているマリオンだった。


ちょっと裏路地に入ると腐った肉が焼かれるような臭いがした。

行って見ると、マスクと割烹着の様な白い布と頭巾をかぶった男が、

「これ以上中には入るな。疫病の恐れがある。

あ、これは聖女様、斯様な所にお越しいただき恐縮なのですが、焼いてしまわぬと王都全体に広がる恐れがございます。

聖女様に何かございましたら、この首一つでは賄いきれません。どうかお下がりください」


マリオンは、何の気兼ねもなく、中に入って行った。

小さい声で、

「アナライズ」

と唱えた。

これは、疫病ではないわね。極度の栄養失調と風邪が蔓延しているわ。不潔な環境と体力がないから動けなくなってしまったのね。


「エリアヒール」

「エリアキュア」

「エリアパワー付与」


今まで寝たまま荒い息をしていたものはいなくなった。起ち上り元気になった。


マスクをした者と話をした。

「これは、栄養失調に風邪を拗らせただけね。」

「国に食料を放出するよう言わないと、あと10日は持つと思うけど免疫力が衰えたものが多数でてくると本当に伝染病が蔓延してしまうわ。」


マスクの男は、国の衛生局職員だったが、おそらく今の国は、小麦が腐りでもしないと放出してくれないと話していた。

取り敢えず聖女からの要請として、嘆願書を国に出して貰った。


すると、マントの裾が黒くなりだした。その黒い影が大きな倉庫の方に“すー”っと伸びて行った。

マリオンは何だったのか分からなかったが、何も起きないのでその場を後にした。


・・・・王国 宰相 ・・・・

数日後の事


「大変です。宰相様、穀物倉庫の一つが小さな虫に覆われ、追い払っても、追い払っても湧いてきて、手が着けれません。これでは、食べる事は出来ません」


「うーむ、困ったな。他に移るともっと困る。

そう言えば、聖女からの嘆願書が出ていたな。構わん全部供出しろ、小麦は沢山余っているから問題あるまい。

中身がどうであれ、聖女の要望に応えたのだ。文句言うなら聖女に言え」


こうして穀物倉庫から小麦が大量に供出された。

運ぶ方も小麦俵から小さな虫がわしゃわしゃ蠢いているのが分かる。


マリオンも心配になり小麦を運ぶ傍らにほっかむりをして話を聞いていた。


「おい、こんなもの食ったら本当に病気になっちまうぞ。」


「どうせ、お偉いさんは、庶民の事など考えちゃくれねえわ。

この小麦だって、国外で飢饉があれば、法外な値段で売るために備蓄していたものだろ。」


「それが、実際はな、飢饉が無いと古小麦として国外に買い叩かれ、儲けどころか運搬費用と“とんとん”だって話だ。倉庫の管理料や俺らの賃金にもなりゃしねえ。大赤字何だと」


「それじゃあ、8割も税金取って、自国民は飢えているのに、全部タダでよその国に売ってるのと同じじゃねーか」


「この国には飢饉は一度だって起こったことはねえ。聖女様の御蔭だろうが、今までは、王国側の人間だ。誰も意見など出来ねーのよ。

絶対誰にも言うなよ。その川に浮かぶおめえを見たくねーからな」


「くわばら、くわばら」


小麦は、スラムの広場に高々と積まれていった。運び終えた人足たちが帰ると黒い虫たちは霧のように消え、マリオンのマントに戻って来た。


虫だらけだった小麦は、普通の小麦に戻った。

「何このマント、何でも有りね。」


スラムの者たちや、食うや食わずの者たちが集まり小麦粥を食べ、段々元気になっていった。


ほっかむりの手ぬぐいを取ったマリオンは、


「しかし、聞けば聞くほどこの国は、本当にどうしようもないわね」


奴隷の私だったら、どうにもならなかったけど、今の私なら少しは役に立つかも。でも、この国に思い入れは無い。父を殺し母を殺し、奴隷のままだったら、私は村の男に犯され、壊れたおもちゃの様に面白くなくなったら、畑に埋められ肥やしになっていた。

そんな私だ。

今更、助けてと言われても本心は、助けたくない。

でも、一緒に笑ってみたいし、遊んでもみたい。

それも私だ。




誤字・脱字、文章の繋ぎがおかしな所を修正しました。

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