4.聖女のお仕事
昨日から何も食べていない。
「お金ない。・・・」
彼女は、生まれた時から奴隷だった。お金の稼ぎ方など全く知識も経験もない。
取り敢えず石の外に出てみた。
「「「聖女様、どうかどうか、お救い下さい」」」
そこには、数百の祈りを捧げる民達がいたのだった。
一人一人を見てみると、足が不自由な人や、皮膚が爛れ包帯を巻いている者などであった。
子供を抱きかかえた御婦人など様々である。
「エリアヒール」
そうすると、
「腰の痛みが無くなったぞ」
「わ、わ、私の息子の熱が下がったわ」
「体中が痛くない」
周りは、騒然となった。
「えー、皆さん、今お腹が空いていて、これ以上力が出ないです。ごめんなさい」
・
・・・・誰も聞いていない。
・
「困ったな。余計腹減った」
・
そこに、神官らしき者が前に出て何やら持って来た。
これは、ご飯が出て来たかと思ったが、
「私は、聖女教の神官にございます。これを、お召し下さい。聖女様」
残念な結果に終わってしまった。
そういえば、神様が言ってたわね。人を信ずるなって。
会ったこともないし、知らいない聖女教の人に服を貰って着てしまったら、聖女教の聖女に認定されてしまう。
いい人か悪い人か見極めないと後々大変な事になるのよね。
(マリオンは、奴隷時代に近所の人達から、饅頭を貰った事がある。3日3晩下痢で生死を彷徨った経験が何回もある。1回で気付けとも思うが)
ここは、慎重に行きましょう。
「私は、聖女教と言うものは存じておりませんので、お受けできません。」
と言い拒否した。
「貴方は、またもや王族派の聖女だったのですか」
「王族派の聖女? それ自体何の事なのかも分かりません。
今はそれどころではないので、通して下さい」
全く! 問答してても腹は膨れないのよね。早くどっか行って欲しいんだけど。
そこに騎士の恰好をした数人が人の群れを掻き分け進んできた。
「どけ!、どけ!」
「我らは、聖騎士団。聖女殿には聖騎士の付与式を行って頂く。ご同行願いたい」
また、高飛車なのが来たわね。
でも雰囲気お仕事みたいだし聞いてみるか。
「なぜ、付与式が必要なのですか、私はそのような事したこともないので分かりませんが、仕事の様に言われてますよね。」
「知らぬのか下賤の者は。この付与式は、代々伝わる由緒正しき式典だ。
これにより、聖騎士団はより強固になりこの国を守る礎となる大事な式典である。
聖女の義務であり、大事な仕事だと言うのに。」
あ、やっぱり仕事だ。仕事だったら当然お金貰えるわね。
「それは、お仕事なのだからお金貰えるわよね」
騎士は、剣に手を掛け、
「な、な、なんと下賤な輩。この由緒ある式典に金の話など持ち込みおって。
許せぬ、ここで成敗してくれようか、この奴隷が!」
もう一人の騎士がそれを手で制し、
「分かった。王子には、話しておくので、来て頂こう」
そう言って近くの聖騎士宿舎に行くことになった。
そこには1000人を超える全身に鎧を纏った騎士が、武装した馬に乗り整然と並んでいた。一番前に、黄金に輝く鎧を纏う超イケメンの騎士が馬に乗りながら、こちらに近づいてきた。
「やあ、君が今代の聖女かい、僕は知っての通りこの国の王太子ジョエインと言う。
この騎士団の団長でもある。
時間も勿体ないから“ささっと”やってくれないかな」
中々のイケメンで、ちょっと涎が垂れそうになったマリオンだったが、これ以上お腹が減っては、動けなくなりそうだ。
頭の中で“串焼き”を思い描きながら、
「はい、分かりました」
頭の中で、力を送るイメージをして
「エンチャント、エクストラパワーチャージ!」
すると、騎士たちが輝き始めた。
段々その光が収まり始めると、
「おおー、力が漲る。」
「これで、今晩から女十人は抱かないと体が爆発しそうだわい」
などと騒いでいる。徐にマリオンが王子様に聞いた。
「あのー、王子様お金の話聞いてますよね。」
「ああ、聞いているさ。この奴隷が!」
と言って、金貨100枚は入っている巾着を思いっきりマリオンの顔めがけて投げた。
“ゴシュ”
「がああ、目がー」
一人の騎士が進み出て来た。
「この奴隷が王子に近づくな!」
“バシュ”
音と共にマリオンの首は宙に舞った。
・
「ははは、良くやった。こちらへ来い」
騎士が王子に近づくと、
“グサッ!”
「な、な、何を、貴方が首を落とせと命じたのではないですか、なのに、なぜ・・・」
「僕が、そんな事を命じる訳ないでしょ。
君が下賤の者、下賤の者と言うから、暴走してそんな事になったら大変だねと言っただけだよ。
聖騎士だけが呪いを受けずに聖女を害せる。しかし、聖女を害したものが聖騎士を名乗るなど許される訳がないだろう。
でも楽しかったよ。ありがとう、ちょっと鬱憤が晴れたかな」
・
首を刎ねられたマリオンは、段々霞の様に消えていった。
・
・・・・大聖堂の石の中・・・・・
マリオンは、はっとして目が覚めた。
「確か首を刎ねられたのよね。」
一度は死んだが、蘇ったようだ。
「服は?、着てる。良かった一張羅なのよ。ちょっと首回りに血が付いちゃった」
「お金もあるわ。よかったー、握り締めておいて。」
取り敢えず、ご飯と服を買おうと思うマリオンだった。
石の外に出ると、そこには、先ほど襲ってきた騎士の首が置いてあった。
“聖女へ無礼を働いた者を成敗した。 ジョエイン王太子より”と紙が貼ってある。
死ぬ瞬間、激痛が走ったことを今でも覚えている。
「死ぬほど痛いって、この事よね。あ、死んだんだからもっと痛いか」
あの王子、騎士がこちらに来るよう目配せしていたわ。
それでいて、そのものの首を刎ねるなんてどう言った神経をしているのかしら。
大体あいつ、王太子じゃないと思うけど。
もう二度と王家に関わる仕事はしないと心に誓うマリオンだった。
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